著者のコラム一覧
金井真紀文筆家・イラストレーター

テレビ番組の構成作家、酒場のママ見習いなどを経て2015年から文筆家・イラストレーター。著書に「世界はフムフムで満ちている」「パリのすてきなおじさん」「日本に住んでる世界のひと」など。

「世界ぐるぐる 怪異紀行」奥野克巳監修、川口幸大ほか著

公開日: 更新日:

「世界ぐるぐる 怪異紀行」奥野克巳監修、川口幸大ほか著

 アフリカ出身の友人と話していて驚いたことがある。彼はかつてある政党の党員だったが、それを同胞には隠している。「敵対する政党の支持者に知られたら毒を盛られるかもしれないから」と言うのだ。ひえ~、毒を盛るとは恐ろしや! わたしは青酸カリとかトリカブトをイメージして震えあがった。しかし後日、アフリカに詳しい文化人類学の先生から「それは呪術の毒かも」と指摘されて膝を打った。おぉ、なるほど、その可能性もあるか。でも呪術ならばなおさら恐ろしい。

 今回ご紹介するのは、9人の文化人類学者が世界各地で体験した怪異や呪術をつづった本。その「はじめに」で奥野克巳さんは説く。文化人類学では呪術を非合理的で非科学的な迷信だとは考えない、と。なぜなら当人たちは呪術をリアルに生きており、原因となった行動と結果は合理的に結びつけて考えられるからだ。まずこのくだりでうなる。わたしたちの周りにも占いやおはらいや怪談や縁起ものがある。確かにそれらはときに「リアル」で「合理的」だもんなぁ。

 本書に登場する人たちはいずれも怪異と真剣に向き合っている。それぞれの土地で暮らす民も、そこにお邪魔している研究者たちも。すると怪異を信じる効能が見えてくるのが本書の醍醐味だ。失敗した人を責めず、目に見えない妖術のせいだと思えば社会はつらくない(ベナンの妖術師)。妖怪に襲われないためには人が孤立した状態をつくらないことが大切(中央オーストラリアの人喰いマムー)。すごいなー、怪異は。

 あぁそして。世界はこんなに広いのに、人間はとてもよく似ている。 (河出書房新社 1562円)

【連載】金井真紀の本でフムフム…世界旅

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    元横綱・三重ノ海剛司さんは邸宅で毎日のんびりの日々 今の時代の「弟子を育てる」難しさも語る

  2. 2

    巨人・岡本和真を直撃「メジャー挑戦組が“辞退”する中、侍J強化試合になぜ出場?」

  3. 3

    3年連続MVP大谷翔平は来季も打者に軸足…ドジャースが“投手大谷”を制限せざるを得ない複雑事情

  4. 4

    高市政権大ピンチ! 林芳正総務相の「政治とカネ」疑惑が拡大…ナゾの「ポスター維持管理費」が新たな火種に

  5. 5

    自民党・麻生副総裁が高市経済政策に「異論」で波紋…“財政省の守護神”が政権の時限爆弾になる恐れ

  1. 6

    立花孝志容疑者を"担ぎ出した"とやり玉に…中田敦彦、ホリエモン、太田光のスタンスと逃げ腰に批判殺到

  2. 7

    沢口靖子vs天海祐希「アラ還女優」対決…米倉涼子“失脚”でテレ朝が選ぶのは? 

  3. 8

    矢沢永吉&甲斐よしひろ“70代レジェンド”に東京の夜が熱狂!鈴木京香もうっとりの裏で「残る不安」

  4. 9

    【独自】自維連立のキーマン 遠藤敬首相補佐官に企業からの違法な寄付疑惑浮上

  5. 10

    高市政権マッ青! 連立の“急所”維新「藤田ショック」は幕引き不能…橋下徹氏の“連続口撃”が追い打ち