黒木亮(作家)|日刊ゲンダイDIGITAL

黒木亮(作家)

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5月×日 1週間の休暇で家内とギリシャのミコノス島を訪れる。ここに来るのはエジプト留学時代以来、39年ぶり。垢ぬけたブティックなどが増え、近代化した風景に時の流れを感じる。

 風が爽やかで気温は23度くらいだが、日差しが強く、すぐ日焼けする。

 若宮總著「イランの地下世界」(KADOKAWA 1056円)を読む。イランに長年住む著者が、表面に比べて10倍くらいの深さと広がりがあるイラン社会の実態を赤裸々に描いた作品。諜報機関で働く、真っ黒なチャドルを着た女イスラム・ヤクザの腐敗ぶりや、名家に生まれた上品で敬虔なイスラム教徒の70代の婦人の話が印象的。

5月×日 船で30分のデロス島へ。紀元前にペルシア帝国軍の来襲に備え、アテナイを中心につくったエーゲ海周辺の都市国家群の軍事同盟「デロス同盟」の本部が置かれた場所。黄褐色の土と岩の島で、島全体がユネスコの世界遺産になっている。開高健は、朽ちた遺跡と瓦礫が乾いた大地に広がる風景を見て、「建築は凍った音楽だといわれるが、それならこれは粉ごなに裂かれた楽譜であろうか」と評した。

 菊池治男著「開高健とオーパ!を歩く」(河出書房新社 2200円)を読む。開高健のアマゾン取材に同行した集英社の元編集者が書いた本。文豪の生の姿と、彼が放つ華麗な語彙、描写の猥雑な美しさに圧倒される。

5月×日 ミコノス島で一番景色がきれいな「リトル・ベニス」という波打ち際の地区にあるレストランで、沈みゆく夕日を見ながら魚のグリルの夕食。空も海も金色に染まり、ヨットや船が黒いシルエットになって行き交う。最高のロケーションだが、39年前は日本の3分の2くらいだった外食の値段が、今は1.5倍くらい。日本はもはや経済大国ではないのか?

 生島淳著「箱根駅伝に魅せられて」(KADOKAWA 990円)を読む。数十年間にわたって箱根駅伝を見てきた著者が書いただけあって、かつて走った私も目から鱗の1冊。

【連載】週間読書日記

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