「メアリ・シェリー」シャーロット・ゴードン著 小川公代訳

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「メアリ・シェリー」シャーロット・ゴードン著 小川公代訳

 昨年公開された映画「哀れなるものたち」と2018年に公開された「メアリーの総て」は、いずれもゴシック小説「フランケンシュタイン」の著者として知られるメアリ・シェリーの生涯を骨子にして描いたもの。これまでのメアリ・シェリーの評価は、イギリスのロマン派を代表する詩人、パーシー・シェリーの妻としての貢献が主で、彼女自身の文学的才能は無視される形だった。

 しかし、ここ30年でメアリ・シェリーに対する研究は著しく進展し、その小説の先駆性、母のメアリ・ウルストンクラフトに影響された先鋭的な政治思想などに焦点が当てられるようになった。先の2作の映画もそうした潮流の中から生まれたものだ。本書は近年明らかになった新資料なども踏まえて、メアリ・シェリーの小説を分析しながら家父長制的な価値観に覆われていた18世紀末から19世紀初頭のイギリスにあって、女性の自立を勝ち取るために闘った彼女の足跡をたどっている。

 母のウルストンクラフトは、女性解放運動の先駆者として知られる社会思想家、父のウィリアム・ゴドウィンは先鋭的なアナキスト。ともに社会改革を目指した両親のもとに生まれたメアリ・シェリーだが、母は彼女を産んだ11日後に死亡。メアリは面影のない母を生涯慕い続け、母が残した著作を熟読した。当時の結婚制度からはみ出した形で結びついた両親に倣って、メアリも妻子あるパーシーと恋に落ち子どもをもうける。こうした事情は世間から白眼視されるが、メアリはそれに抗するように当時の女性や弱者が置かれていた状況を自らの作品のなかに書き込んでいく。しかし、そうした彼女の考えは同時代人には理解されず、長いこと貞淑な妻という虚構のイメージに押し込まれてきた。

 日本でも「フランケンシュタイン」以外の作品が邦訳されるなど、彼女の評価は今後さらに高まっていくに違いない。 〈狸〉

(白水社 2420円)

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