ラジオ100年
「今、ラジオ全盛期。」冨山雄一著
日本でラジオ放送が開始されて今年で100年。いまラジオが熱い!?
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「今、ラジオ全盛期。」冨山雄一著
その昔、ラジオの深夜放送が大人気だったのを知っている世代には意外だろう。実は20年ほど前には100円ショップの携帯AMラジオを街頭で配っても誰も振り向かない、そんな時代が当たり前だったという。
本書の著者はそのころNHKでラジオ番組を担当。その後、ニッポン放送に移籍して「オールナイトニッポン」の統括プロデューサーになった。現在40代の働き盛りだ。20年後のいま、ラジオのイベントでは東京ドームでアリーナ席1万2000円の有料イベントを開いても5万3000人が集まるという盛況ぶりなのだ。では復活劇の秘密は? それを振り返ったのが本書。
2000年代のラジオはネットにのみ込まれ、風前のともしびだった。それが劇的に変わったきっかけが東日本大震災。ここでネットが分断される中、ラジオが緊急災害放送の実力を示したことが大転換をもたらした。被災者をつなぐメディアとなったラジオ。東北出身のサンドウィッチマンらの活躍も手伝い、その後のラジオはネットと補完し合って伸長。深夜ラジオでの気軽な発言がネットニュースで炎上するなどの「息苦しさ」もあるが、マスメディアの「広く浅く」ではなく「狭く深く」刺さるメディアとしてのラジオの可能性が今日の隆盛につながったのだ。
(クロスメディア・パブリッシング 1738円)
「われらラジオ異星人」KBCラジオPAO~N著
「われらラジオ異星人」KBCラジオPAO~N著
ラジオはマスメディアのひとつだが、地域密着のメディアでもある。本書は福岡市のKBC(九州朝日放送)の人気番組「PAO~N」(パオ~ン)のパーソナリティー・沢田幸二を中心にした企画本。
まあ“ファンブック”の一種だ。番組の原点は1976年開始の平日夜の番組。
しかし数年しか続かず、80年代に「PAO~N ぼくらラジオ異星人」がスタートし、電話でライバル高校の生徒が互いの学校の悪口を言い合ったり、局のパーソナリティーが福岡や佐賀の高校を突撃訪問したりなど、ラジオならではのマイナーな志向性を生かす番組でティーンエージャーの人気を得たらしい。そのころのリスナーの中にいたのが博多大吉だったというのもローカル番組ならでは。
番組スタッフによる対談が多くを占めるため、パワハラ発言やジェンダー関連の話などもさらりと触れられる。“あとくされのなさ”がラジオならではの印象だ。
(西日本新聞社 1870円)
「ラジオの、光と闇」高橋源一郎著
「ラジオの、光と闇」高橋源一郎著
テレビには出ないがラジオには出たがるという作家は少なくない。本書の著者はテレビにも出ているようだが、ラジオでは自分の番組もある。それがNHKラジオの「飛ぶ教室」。本書はその冒頭で流れる“聞くコラム”。
「こんばんは。作家の高橋源一郎です」から始まり、「生まれて初めて行ったクラシックのコンサートの話をします」など、最近読んだ本、聴いた曲、行った場所などの話が続く。どの話も新書判で大体2ページと数行。こういう“お決まり感”がリスナーに対して絆を感じさせるのだろう。
身辺雑記のようでいながら道徳的な含みのある話が多いが、しゃべり言葉のうえにラジオというメディアの特性もあって、押し付けがましさが和らいでいる。最後も必ず「それでは、夜開く学校、『飛ぶ教室』、始めましょう」で終わる。
(岩波書店 1166円)