「わたしをみつけて」中脇初枝著

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 看護師には看護師と准看護師(准看)の2種類がある。看護師が厚生労働大臣発行の国家資格であるのに対し、准看は都道府県知事発行の免許。准看の業務内容は基本的に看護師と同様、患者のケアだが、それを行うに当たって「医師・歯科医師又は看護師の指示」を受けなければならない。看護師資格の取得は3年以上かかるが准看は2年間で取得でき、費用も安い。また働きながら資格取得ができるのも大きなメリットだ。本書は准看護師として奮闘する女性が主人公。

【あらすじ】山本弥生は桜が丘病院の准看で、年が明ければ33歳になる。桜が丘病院は病床数54の2次救急病院。内科と外科と整形外科というこぢんまりした病院だ。勤め先はどこでもよかった、産婦人科さえない病院であれば。

 弥生は生まれてすぐに産婦人科医院の前に捨てられ、その後施設で育った。自分が捨てられた産婦人科がある病院では働くことができない。そして准看を正規雇用で雇ってくれ、しかも3交代勤務という条件を満たしたのはこの病院だけだった。

 自分には他に行く場所がない。だから問題のある医者がいても文句も言わずに淡々と仕事をこなしてきた。それが変化したのは新しい師長、藤堂がやって来てからだ。藤堂の仕事は完璧で、就任早々患者の容体はすべて頭に入っており、問題のある医者に対しては断固とした態度で臨む。院長の診断ミスで患者の容体が急変した際も藤堂は立ち向かうが、逆に病院を追われてしまう。そんな藤堂の姿を見ているうちに、弥生は准看という自分の仕事を見つめ直していく――。

【読みどころ】周囲に壁を築いていた弥生が、准看という仕事を通して徐々に自らの居場所を見いだしていくという一種の成長小説。 <石>

(ポプラ社660円)

【連載】文庫で読む 医療小説

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