イヌ・ネコから寄生虫まで 生き物たちが大活躍する本特集
「ミーのいない朝」稲葉真弓著
ブームを通り越して、ペットランキングの首位を守り続けるネコ、一方で再び首位の座に返り咲くことを虎視眈々と狙うイヌ。そんなペット界の2大王者をはじめ、水族館で飼われているさまざまな生き物や、あまりお友達にはなりたくない寄生生物まで。今週は、さまざまな生き物たちが登場する本を紹介する。
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「ミーのいない朝」稲葉真弓著
人生に寄り添ってくれた愛猫との出会いから別れまでの20年をつづり、世界各国でベストセラーを記録したエッセー。
1977年の夏の終わり、多摩川べりの町に住んでいた作家は、風に乗って届く鳴き声に向かって歩き、その猫と出会った。子猫は何者かの悪意かいたずらによって中学校のフェンスの穴に押し込まれていた。腕をのばすと強い力でしがみついてきたその子猫を連れ帰り、ミーと名付けて一緒に暮らし始める。
薬局で手に入れたスポイトや赤ん坊用の哺乳瓶でミルクをのませ、ミーは日ごとに大きくなり、庭や家の前のニセアカシアの林はすぐにミーのお気に入りの場所となった。まもなく、この子猫は抱かれると、とたんに震えだすことに気づいた。宙が怖いのだ。フェンスの穴に吊り下げられた記憶が消えることはないようだ。
ミーと暮らすために難渋した家探しや失職、そして離婚など、愛猫との深い絆を心の支えに生きた半生をつづる。 (河出書房新社 880円)
「えげつない!寄生生物」成田聡子著
「えげつない!寄生生物」成田聡子著
宿主をマインドコントロールして自己の都合の良いように操る技を持つ寄生生物たちの恐るべき生態を紹介するサイエンスエッセー。
ハリガネムシは、泳げない宿主昆虫を自ら川に飛び込ませ「入水自殺」させるという。水中で卵から出てきたハリガネムシの赤ちゃん(幼生)は、カゲロウやユスリカなど水生昆虫に食べられると、体を折りたたんで休眠モードに突入。水生昆虫が成虫になり陸上生活をはじめ、カマキリなどの肉食昆虫に食べられると、ハリガネムシの幼生は覚醒して、宿主の消化管に入り込み成長する。やがて繁殖能力を持つようになるが、交尾には川の中に戻らなければならない。そこで、陸でしか生活しない宿主昆虫をマインドコントロールして川へと向かわせるという。
他にも、アリの脳を乗っ取って自分の都合の良い場所で殺すキノコや、ゴキブリにロボトミー手術をして操る宝石バチなど。生き物たちの「えげつない」生存戦略に脱帽。 (新潮社 649円)
「ロンドン、ドッグパーク探偵団」ブレイク・マーラ著 高橋恭美子訳
「ロンドン、ドッグパーク探偵団」ブレイク・マーラ著 高橋恭美子訳
イースト・ロンドンに暮らすルイーズは、朝、愛犬のミニチュアダックスフント・クラウスの散歩のため、友人のイリーナとその愛犬スコティッシュ・テリアのハミッシュと、パートリッジ・パークのドッグランに向かう。
リードを外された犬たちが、草むらで騒ぎだす。近づくと男性が死んでいた。愛犬家たちで作るグループチャットによると、その日の早朝3時半ごろ、多くの犬が異変を察してほえたという。どうやらその時刻に遺体がここに捨てられたようだ。翌日、ルイーズは、被害者が顔見知りのフィルだったことを知る。かつてはドッグランの常連だったが、彼の愛犬の死後、疎遠になっていた。悔やんだルイーズは彼の死の真相を突き止めようと決断。その矢先、ボクサーのハークの飼い主ヤズから連絡が入る。ドッグランの別の場所でフィルの携帯電話を見つけたというのだ。
犬仲間とその愛犬たちが活躍する前代未聞の長編ミステリー。 (東京創元社 1540円)
「水族館ガールNEO」木宮条太郎著
「水族館ガールNEO」木宮条太郎著
市職員だった由香は、出向を機に千葉湾岸地区の水族館アクアパークに転籍、イルカやラッコ、ペンギンなどの水族(水生生物)を担当してきた。大企業の開発による水族館存続の危機をともに乗り越えた先輩の梶と結婚も果たしたが、いまだに新婚の実感がわかない。
そんなある日、由香は館内で黒岩と岸を見かける。館存続の危機の折に、世話になった2人だ。由香は帰ろうとする2人からメモを渡される。
由香は、開発をあきらめない大企業連合体が水族館の運営会社の買収に乗り出そうとしていることを知る。その対策を練るため館長が2人に水族館の現状チェックを依頼したようだ。でも、メモには「汽車ぽっぽ」「大々、きらきら」「壁、アンタッチャブル」とだけ書かれ、由香には何のことやらさっぱり分からない。
そんな中、由香はカニの権威の推薦を受けアクアパークでの研修を希望する大学生実習生・宮川の指導員を任される。
水族館を舞台にしたお仕事小説第2弾。 (実業之日本社 858円)