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荒木経惟写真家

1940年、東京生まれ。千葉大工学部卒。電通を経て、72年にフリーの写真家となる。国内外で多数の個展を開催。2008年、オーストリア政府から最高位の「科学・芸術勲章」を叙勲。写真集・著作は550冊以上。近著に傘寿記念の書籍「荒木経惟、写真に生きる。荒木経惟、写真に生きる。 (撮影・野村佐紀子)

樹木希林さんの思い出<2>体調悪いのかなというのがチラリ

公開日: 更新日:

 好きで撮りたいなと思っている人とは、たいがい良い出会いができるね。雑誌の撮影で樹木希林さんを撮ったんだよ(『FRaU』〔講談社〕2016年6月号に掲載)。久世(光彦)さんの葬儀の出棺のときに、手を合わせた希林さんの手指を撮って、それから10年後だったんだねえ(演出家・久世光彦さんの葬儀が2006年に文京区の護国寺で営まれた)。

 撮影では、オレと同じで、はたから見たらカラ元気気味な感じだったな。相当体調悪かったんじゃないかな。久世さんの葬儀のときのことを、「きれいでしたよね~、あのときね」って言ったらさ、「私の手がきれいなの当たり前じゃない」って言ってさ(笑)。これがいいんだよ。自分で手には自信があったみたいだね。「オレ、手指に惹かれて撮ったんだよ」って言ったらさ、「私の手はきれいなのよ」って(笑)。手に全部出るんだよね。あのとき、もしかしたら、体調のこととかさ、死に関するなにかが自分の頭の中にあってさ、それで手のほうにまで現れていたのかもしれない。

自分を、そのままをさらけ出すことが演技だと、人生だと…

 撮影のときはね、はしゃいでくれたよ、もう元気に。でも、そこに、体調悪いのかなぁというのがチラリと見えちゃうんだ。もしかしたらバラしちゃってるのかもしれないけどね。もともとあの人は、演技でその人の「人生」を演じるんじゃなくて、自分を、そのままをさらけ出すことが演技だと、人生だと、思っているんだよね。だから自分を隠さない。そういう人だったね。

希林さんにとって過去よりも今が一番なんだよね

 変な言い方だけどさ、役者というのは、女優というのはさ、人間を表現するということであると。それが女優であり、俳優であるということだと。だから、何かを演じるんじゃなくて、なんでも自分自身を表現しているでしょ。“ジュリー~~~”って言ったって、映画の『万引き家族』に出たって同じだもんな。お茶の先生もやってたよね(映画『日日是好日』)。要するにさ、オレはいつも言ってるんだけど、ずーっと現在を、今を感じさせるんだよ、なんの役をやっても。希林さんにとって過去よりも今が一番なんだよね。だから、あの人にとって女優というのは、自分自身にわがままに生きること。それが女優ということなんだよね。 =つづく

(構成=内田真由美)

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