俳優・タレント中本賢さんにとっての「釣りバカ日誌」シリーズ名場面

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ハマちゃんとスーさんの掛け合いをみち子さんの笑った

 そんなハマちゃんとスーさんの三国さんの掛け合いが面白いです。芝居に対する向き合い方がまるで正反対。三国さんは古いフィルム時代からの俳優さんなので、フィルムをムダにできないことがよくわかっています。ですから、現場に入るとテストと稽古を繰り返し、本番では一発で決めるタイプ。逆に西田さんはテストのたびに自由にアドリブを入れる変幻自在スタイル。大先輩の三国さんに繰り返し稽古に付き合わされる西田さんの困った顔が面白くて、みち子さん役の浅田美代子さんといつもクスクス笑っていました。

 石田えりさんがやった最初のみち子さんもインパクトがありました。彼女はボーイッシュながら色気もあるすてきな女優さんで、2人の「合体」がいやらしく映らないのがすごいなぁと感じていました(笑)。

 西田さんのアドリブですが、実に的を射たアドリブであることが多い。僕と西田さんのケンカのシーンがあり、僕がハマちゃんに首を絞められることになりました。その時、西田さんが「賢ちゃん、首絞めるから笑いながら気を失わない?」といきなり言ってきたんです。僕は「何、それ」と思ったけど、やるしかないですよね。それで失神前に僕がニコッて笑ってみせたら、西田さんがそれを見て噴き出すんですよ。もう遊び心がすごいです。でも、実際には、そのシーンが劇場の公開では大爆笑でした。「釣りバカ」の的を外さない「悪ノリ」。これが多くの方々に愛された理由かもしれませんね。

 僕が演じた八郎という役は、実は漫画の原作にはない役どころでした。ハマちゃんの家の隣に住んでいる釣り船屋の船頭という設定です。

「釣りバカ」は釣り好きで会社の中でちょっと浮いたサラリーマンと、社長の物語です。日常の会社生活と対比させる、趣味の世界にリアリティーを持たせるため、ハチのような存在が必要だったんだと思います。

■ガラガラの海から箱崎インターの大渋滞を見て

 印象深いのは、第1作のファーストシーン。

 朝寝坊したハマちゃんが船着き場に走り、「船で送ってくれ」と言われたハチがハマちゃんの会社がある日本橋まで船を出す。設定は羽田です。隅田川の河口から上り、日本橋川に入っていくと、上に箱崎インターが見えて大渋滞している。その時に「ラッシュがすごいね」と言うハマちゃんに、ハチが「陸(おか)を行くやつぁバカよ」と言い返す。つまり、この映画はガラガラの海の上からギューギュー詰めの世間を見る映画だよって、その一言で見事に表現している。後になって気がつきましたが、今でもすごいセリフだったなぁと思っています。

子どもたちを川で遊ばせる「多摩川クラブ」の活動

 映画が終わってしばらく経ちますが、07年から多摩川クラブという、子供たちを川で遊ばせる活動をやっています。体験を通して、ふるさと多摩川の新しい価値に気づいてもらおうと始めた活動です。それまで見向きもしなかった価値のない多摩川に、新たな価値が生まれることを期待して続けています。

 初めて川で魚捕りを楽しむ子供たちを見ていると、今さらながら「陸を行くやつぁバカよ」というメッセージの重要さを感じます。多摩川は楽しい場所と気づくキッカケになっているようです。ハマちゃんのような自由人の立場に立って、身の回りの価値のない場所をもう一回見直してみるのも面白いかもしれませんね。

「釣りバカ日誌」は、ちょうどバブル期と重なる時代に撮影されました。豊かさが経済で測られた時代です。やがてバブル経済は終焉を迎え、時を同じくして松竹大船撮影所も閉鎖されました。釣りバカ13作目は大船撮影所最後の作品です。鉛のように重く冷たい現場で、より楽しい映画にしようと奮闘する撮影所スタッフにかける言葉が見つからなかったのを覚えています。

■豊かさが経済で測られた時代への警鐘

 豊かさを経済の物差しで測る時代は終わっているかもしれませんね。たった二十数年前の映画ですが、すでに時代劇にされるようなスピードで社会が変わっています。映画の黄金時代はテレビの普及で終わったそうですが、そのテレビが今、ネット社会に追いやられている。変わるものを追いかけるのはとても大変ですね。頭を抱えるのではなく、陸を行くバカが海原に出るいいチャンスかもしれません。ハマちゃんと一緒に出かけましょう。広い海はとても気持ちがいいですヨ。 

(聞き手=峯田淳)

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