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佐々木常雄東京都立駒込病院名誉院長

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

「余命1カ月」と記された書類にサインをさせられた患者

公開日: 更新日:

 医師が「余命1カ月」を淡々と患者に告げる。患者は「余命1カ月」と記された書面にサインする。そんな時代になったのでしょうか? 奥さんからその書面を見せられた私は、「『余命1カ月』にサインしたFさんは、その後の一日一日をどう過ごすのだろう。食事が普段の半分ほどしか食べられなくなっているのに『自分らしい日々を送る』なんて……。本当にそのようなことができるのだろうか」と思いました。Fさんは「夜は睡眠剤をもらっています」と寂しそうに笑っていました。

■患者と医師の関係が希薄になっているのでは

 30年前まで、われわれが行ってきた「患者にがんを隠し、最後まで死を隠した」医療とは天と地ほどの差があるように感じます。あの当時、医師も家族も、患者本人に対して「がんを隠すこと、死を隠すことが最大限よかれと思って、それが最大の愛と思いやり」であると信じていました。私たち医師は病気が悪化しても死を話さず、「大丈夫、大丈夫」と言い続けてきました。

 いまの時代では、「がんの末期で血圧が下がった時に、たくさんの昇圧剤、強心剤を使ったなんて、なんと無駄な治療をしたものだ」と嘲笑されます。しかし、告知をしていない、患者本人には最後の最後まで死を隠す当時の医療においては当然の、家族にとっては納得のいく治療だったと思うのです。当時、ほとんどの患者は真実を言われなくとも医師を信頼していましたし、われわれ医師も患者とのコミュニケーションは良好だったと思うのです。

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