3度の手術でお腹の模様が…落語家・入船亭扇海さん膵臓がんを振り返る

公開日: 更新日:

入船亭扇海さん(落語家/70歳)=膵臓がん

 2010年、58歳のときに突然、「膵臓がん」のステージ4と診断されました。告げられた余命は「半年」。そう言われてかれこれ12年たったところです。おかげさまで生きていますけれども、当時は思いもよらなくて頭が真っ白になりました。

 予兆は、その1年前からあった両足のふくらはぎの違和感でした。重いようなしびれるような感覚です。

 いつも血圧を調べてもらっている町医者に相談したら「座骨神経痛」と言われました。その後、妙にトイレが近くなったのでそれも相談すると、今度は「前立腺肥大」とのこと。周囲から「大学病院で診てもらった方がいいよ」と助言されたのもあり、近場の大学病院に行って調べてもらったところ、膵臓がんが見つかったのです。

 最初に思ったのは、「なんでがんになったんだろう?」でした。うちの家系はがんと無縁だったからです。あとから無縁じゃないことを知るんですけれど、両親ともに90歳近くまで生きましたし、がんを患った親戚も知りませんでした。

 そこそこ長生きする前提で人生設計していたのに、それがガラガラと崩れ、おまけに「どうせ長生きするんだから」と夫婦で話し合い、生命保険を解約したばかりでした。ショックを受けたのはうちの奥さん。とにかく明るい奥さんなんですけど、あの時ばかりは「もうちょっと続けていればよかった。悔しい」と涙を流してました(笑)。

 即入院、即手術となり、12時間の手術で、膵臓の大部分と、転移していたリンパ節、十二指腸、胆のうなどを切除しました。膵臓を少しだけ残したのは、インスリン注射をしなくて済むようにという主治医の配慮です。どうやら糖尿病も合併していたようです。

 その主治医は肝胆膵外科の高度技能専門医で、手術ができただけでも運が良かったと思いました。ただ、大動脈にあるリンパ節が切除できなかったので、転移するかもしれないとは言われていたんですよ。

 1カ月ほどで退院したあと、「野菜でも作りながら四季を感じて死にたいな」と考えて、東京から千葉の勝浦に住居を移し、2年間野菜を育てて過ごしました。

■今年7月に肝臓への再々転移が見つかった

 肝臓への転移が見つかったのは12年の夏でした。定期的な検査で早期に見つかったものの、手術をするにあたって検査をしたら、心不全も見つかりました。塞がった2本の冠動脈にステント(血管が塞がらないようにするコイル状の筒)を入れる手術をしたあと、肝臓を4分の1ぐらい切除しました。

 術後、抗がん剤治療をしながら仕事も復帰し始めたのですが、15年に肝臓への再転移がわかり、また手術で肝臓を切除しました。最初は縦にズドーン、次は横にスパーン、さらにもう1回、横に切っているので、お腹は痛々しい模様になってます(笑)。

 15年の肝臓転移がわかる少し前に、勝浦の地元のお年寄りとお話しする機会があって、「落語を聞きに行きたいけど、お金がかかるし東京までは行けない」と聞きました。それで、私が「勝浦らくご館」というのをつくり、主催者となって勝浦のホールに林家木久扇並びに木久蔵師匠親子を格安でお招きして、第1回を開きました。

 会場に花火のような「どーん!」という笑いが起こって、しばらく笑いが止まらない状態でした。そんな経験がないお客さんたちはびっくりしたと思いますよ。「良かった」「またやって」という声にこちらもうれしくなって、がん治療の傍ら年4~5回のペースで落語会を開きまして、この夏で32回目を迎えました。

 自分でもよく生きてるなって思うわけで、講演なんかに行かせてもらっても、笑いを交えて治療を語るものだから「本当にがん? うそでしょ?」って言われるんです。

 元気で笑っていられるのは“職業病”もあるけれど、運よく「痛くない」からなんです。毎月受診してますし、こまめに検査しているので早期発見、早期治療のおかげですかね。もちろん術後は毎回ものすごく痛いですし、抗がん剤の副作用はありますけどね。

 実は、この7月にも肝臓への再々転移が見つかりまして、これまでずっと診てくれた主治医が「もう手術はできない」と、国立がん研究センターに紹介状を書いてくれました。何やら、がんセンターでは新しい治療方法があるらしいんです。しかも、保険治療になったばかりだとか。運がいいでしょう? 私もついにがんの“名門”に行けることになりました(笑)。

 つい先日、お世話になった方々に直接お礼を言いたいと思って生前葬を開いたんですけど、また生き延びるかもしれません。私なんか生き延びても大したことはできませんけど、「勝浦らくご館」で地域社会に貢献ができたことは良かったなと思っています。人々に楽しんでもらうのが芸能の世界にいる者の務めかなぁと思うので、できる限り全国津々浦々に出向いていって、人々に落語を届けたいと思っています。

(聞き手=松永詠美子)

▽入船亭扇海(いりふねてい・せんかい) 1952年、東京都生まれ。24歳で9代目入船亭扇橋に入門し、2年後に前座(扇たく)、81年に二つ目に昇進し扇海を名乗る。93年、41歳で真打ちに昇進。病気を機に千葉・勝浦市に移住し、2011年に勝浦らくご館を設立。転移を繰り返すがんを治療しながら、地域の人に楽しんでもらう落語会を開催し続けている。

■本コラム待望の書籍化!愉快な病人たち(講談社 税込み1540円)好評発売中!

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    石丸伸二ブーム終焉の兆し…「そこまで言って委員会」で泉房穂氏の舌鋒にフリーズし“中身ナシ”露呈

  2. 2

    巨人今季3度目の同一カード3連敗…次第に強まる二岡ヘッドへの風当たり

  3. 3

    吉村大阪府知事と「羽鳥慎一モーニングショー」で因縁の対決 玉川徹氏は終始冷静で大人だった

  4. 4

    日本ハム清宮幸太郎またまた開幕前に故障のナゼ…貪欲さは向上も決定的に「足りない」もの

  5. 5

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  1. 6

    メッキ剥がれた石丸旋風…「女こども」発言に批判殺到!選挙中に実像を封印した大手メディアの罪

  2. 7

    日本ハム清宮幸太郎と野村佑希は「トレード移籍」へ正念場…現場の指導力や起用方針にも問題か

  3. 8

    イメージ悪化を招いた“強奪補強”…「悪い町田をやっつける」構図に敵将が公然批判でトドメ

  4. 9

    「あの無口な少年が…」佐野海舟の下半身醜聞に母校関係者は絶句、その意外すぎる評判

  5. 10

    水川あさみ「笑うマトリョーシカ」で注目のイケオジ俳優とは “嫌な男”役から《カッコいい》へ評価一変