映画監督の河村光彦さん「脳梗塞」で救急搬送の一部始終を振り返る

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4月13日は私にとって運の悪い日

 でも、よりによって上映初日にそんなことになるとは「神様どうなってんの?」と思いましたよ。思えば4月13日は私にとって運の悪い日なんです。20歳で大失恋をしたのも4月13日でした。彼女が「運転のできる人がいい」というので合宿して免許を取ったのに、「もう会いたくない」って……。あまりのショックに「これでもまだ君は彼女が好きか?」という8ミリ映画を作りました。

 ただ、それを見た映画好きの先輩から声がかかって、黒沢映画「乱」のメーキング取材班として参加することができたのです。もちろんノーギャラ。でも、私は黒沢監督に憧れていたのでうれしくてうれしくて、夢のような1年間を過ごしました。

 その150時間にも及ぶビデオテープは大人たちに取り上げられ、紆余曲折あって何十年後かにやっと取り戻したんです。ただ画質が悪く、作品にするならデジタル化が必須。なのに予算のない私は「いつかきっと」と思いながらずっと押し入れで眠らせていました。

 それが一変したのは2020年2月でした。「胃がん」から「悪性リンパ腫」が発覚したのです。1カ月の入院と半年間の抗がん剤治療をして、今は経過観察中ですが、死ぬかもしれないと思ったときに夢を見たんです。黒沢監督が「河村君、あのビデオの価値を本当にわかっているのか?」と言うんですよ。それで一念発起して借金をして、ビデオをデジタル化して作ったのが「Life work of──」です。

 抗がん剤治療で免疫力が低下する中、コロナ感染の恐怖にさらされながら、字幕を付けるなど地道な編集作業を進め、40年の時を超えてやっと上映となったら、今度は脳梗塞。編集作業の中で毎日1つアンパンを食べていたのが悪かったのかな。劇場に作品を売り込むだけのために株式会社を立ち上げたり、いろいろなものを犠牲にした挙げ句、あれで私が死んでいたら、あの映像はお蔵入りだったでしょう。

 でも、20歳の4月13日の大失恋からはじまり、脳梗塞になった4月13日までの奇跡のストーリーは、今となってはこうした取材やトークショーのネタになっていますから「まぁいいか」と思っていますけどね(笑)。

(聞き手=松永詠美子)

▽河村光彦(かわむら・みつひこ) 1961年、愛媛県出身。84年、大学在学中に黒沢明監督の映画「乱」のメーキング取材班として1年間を過ごし、卒業後に上京。その後、テレビ、映画製作に従事。当時の記録ビデオをまとめたドキュメンタリー映画「Life work of Akira Kurosawa 黒澤明のライフワーク」を各地で上映。直近は4月28日、「高円寺シアターバッカス」で上映予定。DVDもAmazonで発売中。

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