80歳を超えたら「物忘れが多い」は普通…イコール認知症ではない
「誰と何をしたか」体験の細かい要素は忘れていても問題ない
記憶にはいくつかの種類があります。代表的なものではまず、エピソード記憶です。
これは、「昨日友達と会っておしゃべりをした」など、個人が経験した具体的な出来事の記憶になります。
次に、意味記憶。「1、2、3……」という数字やその順列、「“ことば”は漢字で“言葉”と書く」という漢字や読み方、「地球は丸い」「東京は日本の首都」という一般知識など特定の体験とは関係なく持っている記憶です。
そして、手続き記憶です。自転車の乗り方、車の運転、泳ぎ方など練習などで身につけた記憶が該当します。
記憶は、時間との関係でも分類できます。比較的短い時間の短期記憶、長い時間が経っても覚えている長期記憶などです。認知症の場合、直近の記憶から失われていき、かなり昔のことはありありと覚えています。
「物忘れが増えた」となった場合、どういったことを覚えていないのかによっても、認知症もしくは別の病気を疑う判断材料になります。
例えば、エピソード記憶のうち、細かい要素が思い出せなくても、あまり心配しなくていいでしょう。「昨日友達と会っておしゃべりをした」ことは覚えているけど、その時お茶を飲んだ店の名前を思い出せなくても、別のタイミングでふと頭に浮かんでくるかもしれません。
ただ、「昨日友達と会っておしゃべりをした」という行動そのものが抜け落ちてしまっているようなら、重要なエピソード記憶の障害とも言えます。一方で、友達とのおしゃべりが自分にとってごくごくつまらない、印象の薄いもので、しかも、それからしばらく日にちが空いていたら、忘れていても仕方ないのかもしれません。意味記憶あるいは手続き記憶だけが障害されるといったこともあります。脳の側頭葉の特定の部分に神経変性が起こる前頭側頭葉変性症や脳もしくは脳以外のほかの病気の可能性があるかもしれません。
すでに述べている通り、80歳を越えたら物忘れだけで認知症を疑うことは避けるべきですし、ほかにも何か変化はないかに目を向けるべき。
それでも「もしかして」と思う場合は、どういった場面で物忘れが増えたのか、受診時に医師に告げるようにしてください。認知症をたくさん診ている、認知症に詳しい医師なら、ある程度予想をつけて、必要な検査だけを行うはず。物忘れに関する検査はいろいろあり、それらを全てやるとなると、高齢の患者さんにとって心身への負担が大きくなります。