(38)「母と娘」という形は、はっきりと失われた

公開日: 更新日:

 8カ月前、異変に気づいて急きょ帰省した際に、すでに認知症はかなり進んでいた。しかしこの日は、状態は安定していると聞いてはいたものの、表情や反応はさらに乏しく、受け答えがかなり難しくなっていた。

 私の記憶の中にあった「母と娘」という形は、この時、はっきりと失われたことを感じた。父が亡くなり、今や母の判断を支えるのは私だけになってしまったのだ。

 私はゆっくりと、「もうすぐ退院になるけれど、その後は自宅に帰りたいか、それとも施設に入って生活の支援を受けたいか」と聞いてみた。母は、「家に帰っても私は何もできないから、施設にお世話になりたい」と答えた。それが本心だったかどうかはわからなかったが、言葉として出た以上、納得して準備を進めていける。

 このやりとりをひとつの区切りとして、母のこれからの生活を支える責任を引き受ける覚悟を固めるしかない。そう思ってみたものの、事実は重くのしかかってきた。この時点で、母はまだ、父が亡くなり実家は無人になっているということを知らなかった。(つづく)

▽如月サラ エッセイスト。東京で猫5匹と暮らす。認知症の熊本の母親を遠距離介護中。著書に父親の孤独死の顛末をつづった「父がひとりで死んでいた」

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    眞鍋かをり「愛子天皇待望論」は“陰謀論”発言が波紋…高学歴タレントコメンテーター生き残りの厳しい現状

  2. 2

    横綱大の里は“休場”に逃げられない? タイミングが悪すぎた土俵際の「大ジャンプ」

  3. 3

    佐々木朗希をヤンキースが強奪へ…大谷翔平&山本由伸を奪われた名門が企んだ雪辱戦

  4. 4

    三山凌輝「裏切り愛」でも愛娘・趣里に離婚を勧められない水谷豊&伊藤蘭の悲痛

  5. 5

    今夏の専大松戸の継投策が「エース→2番手」ではなく「2番手→エース」の理由…いざ千葉県大会決勝へ

  1. 6

    趣里の好感度にもいよいよ影響が…パスタ店開業の三山凌輝は「物言えば唇寒し」の悪循環

  2. 7

    中森明菜のタモリ評「心の底からホッとします」は国民の総意か? サングラス姿と性格的な3要素

  3. 8

    佐々木朗希は一軍復帰1試合でまた抹消…どれだけ脆弱でもドジャースが欲しがったワケ

  4. 9

    バナナマン日村が簡単に復帰できそうにない「もう1つの理由」…レギュラー11本抱える人気者のジレンマ

  5. 10

    “令和の武器商人”こと小泉進次郎防衛相の「核ありき発言」に自民国防族もカンカン