(46)年金だけではまかなえない。「生きる」のはあと何年──
ただ、現実は厳しい。父はお金を使い切って亡くなり、財産らしいものは何ひとつ残さなかった。借金がなかっただけ良かったとも言えるが、残された実家の維持費は、すべて私の負担だ。
人が住まなくなった家は、思いのほかお金がかかる。固定資産税、水道光熱費の基本料金、庭木の剪定、草刈り、防犯会社との契約。どれも最低限の管理だが、それだけでも年間で数十万円の出費になる。
東京から行き来する交通費も高額だ。昔は家族が犬や猫たちと暮らしていたその家が、静かに私の生活を圧迫していく。
父は生前、「この家さえあれば、あなたの助けになるから」と私によく言っていた。だが今、広い土地と家は、私にとって資産というより、まさに「負動産」だった。
「母はあと何年、生きるのだろう」
そう思った瞬間、自分の中に生まれたその問いを、慌てて打ち消した。 (つづく)
▽如月サラ エッセイスト。東京で猫5匹と暮らす。認知症の熊本の母親を遠距離介護中。著書に父親の孤独死の顛末をつづった「父がひとりで死んでいた」。