「烏森百薬」などを展開 ミナデイン大久保伸隆社長の巻<3>
ふじ居(富山県・富山市)
ご主人、藤井寛徳さんは富山の食材をひと味も、ふた味も引き立てる達人です。北陸の冬の名物といえば、甲箱ガニでしょう。コースの締めに、和食にアレンジされた甲箱ガニがいただけます。それが最高で、毎年この時季にお邪魔するのです。
お店がある東岩瀬町は北前船の寄港地として栄えた地域で、富山ライトレールの東岩瀬駅を降りて歩いて向かうと、酒屋や昆布巻き屋、釣り具屋などが、当時を忍ばせる町家風情のまま軒を連ねています。歴史散策にうってつけ。満寿泉で知られる桝田酒造の試飲スペースの隣に店を構えています。
歴史散歩で甲箱ガニモードがより一層高まったところで、「ふじ居」とかかれた白いのれんをくぐり、玄関の扉を開けると、女将さんがお出迎え。7席のカウンターの目の前には、立派な庭が広がります。
前置きはこれくらいにして、スタートはマダラの子付けでした。関東では、タラを刺し身にするのは珍しい。昆布でしっかり締めた一切れに、たっぷりとタラの子をまぶしています。タイのように引き締まった身は、子がほどよい塩味を与え、出だしから感動。
かぶらをみぞれ仕立てにしたお椀の主役は、グジでした。北海道・利尻の最高級昆布と鹿児島枕崎のかつお節で丁寧に取られたダシは、日本人ならホッとする味。グジのウマ味が優しく胃に収まります。
もちろん、酒は満寿泉です。注文すると、富山のガラス作家・安田泰三さんの鮮やかな酒器を選ぶスタイル。食材も、器なども、とことん富山を追求しているのです。
富山のある寿司屋のご主人は、「富山の食材はどれもおいしいけど、80点。それを100点、120点に引き上げるのが料理人の腕の見せどころ」とおっしゃっていました。藤井さんは、まさに120点の料理を出してくれます。ヒラメの刺し身は8時間の熟成で、一般的な店より厚切りに。ブリは、脂の乗ったスナズリと赤身の部分をそれぞれいただける心にくい気配りです。タラの白子は、ゆず釜で香りをのせています。
金沢の「銭屋」、京都の「味舌」で修業し、2011年に地元・富山に戻って店をオープン。技術に裏打ちされているだけあって、味はもちろん、見て楽しめる仕上がりです。山の風景を再現した八寸は、絵はがきのようでした。
皮目をパリッと焼いたブリの塩焼き、傘の部分が男性の親指くらいありそうな大なめこのお椀に続いて、真打ちの甲箱ケジャンです。
「生きたまま一晩漬けました」
自家製の醤油ダレに漬けた一パイを見せてくれたら、それがさばかれて甲羅にのって登場。韓国にも醤油漬けのケジャンはありますが、これは和風のそれ。外子と内子もたっぷりで、自家製コチュジャンもいい。土鍋で炊いた銀シャリと一緒にいただくのです。
「最後は甲羅に入れて混ぜるとおいしいですよ」
もはや説明不要ですが、甲箱ケジャンは事前予約限定なので念のため。夜のコースは2万円からと安くはありませんが、富山旅行の際はぜひ!
(取材協力・キイストン)
富山県富山市東岩瀬町93
℡076・471・5555
▽ミナデイン 飲食店の経営を通じて、まちづくりをプロデュース。烏森百薬のほか、千葉では「里山transit」も経営。フランチャイズ・コンサルティング事業も手掛ける。
▽おおくぼ・のぶたか 1983年生まれ。千葉県出身。大学卒業後、大手不動産会社に就職するが、アルバイト時代の飲食店の仕事の面白さが忘れられず、2007年にエー・ピーカンパニーに入社。塚田農場錦糸町店の店長時代は、年間2億円の売り上げを出し続け、14年、副社長に。昨年、独立し、東京・新橋に烏森百薬をオープン。