蘇った「或る列車」九州を走る豪華列車で非日常なグルメ旅

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 今から110年以上前、米国製の上質な客車を九州で走らせる計画があった。のちに国有化される九州鉄道が発注した車両は、製造メーカーにちなみ「ブリル客車」、または「或る列車」と呼ばれたそうだ。

 それを21世紀に蘇えらせたのがJR九州の豪華観光列車「或る列車」である。「ななつ星in九州」に匹敵する特別な旅を演出してくれる。

 明治39(1906)年、九州で最初の鉄道会社「九州鉄道」が展望車や食堂車などを備えた列車を米国の車両メーカー、ブリル社に発注した。もっとも当時は豪華過ぎる客車を持て余したようで、定期運行のニーズも少なく廃車になったという。

 そんな幻の列車が「或る列車」として復活し、九州の大地を走っている。シックな金色のボディーは高級感にあふれ、下部にあしらわれた唐草模様がクラシカルな雰囲気を醸し出す。一歩足を踏み入れると、まるで100年前にタイムスリップしたかのようだ。

 木材がふんだんに使われた車内は、高級ホテルのラウンジのような華やかさ。1号車には、2人用と4人用のテーブルが用意されていて、バーカウンターも併設されている。2号車は、組子で仕切られたコンパートメントが並び、グッと落ち着いた感じだ。

 車内で提供される食事は、“革新的里山料理”で知られるミシュラン2つ星、東京・南青山「NARISAWA」のオーナーシェフ・成澤由浩さんが監修。メニューは月ごとに変わるが、九州産食材を使うという基本は同じだ。

 長崎―佐世保間で運行していた11月に乗車した際も、地元の飛び切り食材が並んでいた。黄綬褒章を受章した沖田黒豚牧場の黒豚は脂身のさらりとした甘味が際立ち、栄養バランス第一の専用飼料で育てられるヨコオのみつせ鶏はうま味が強い。そのほか、酵素を取り入れた農法を得意とする西山ファミリー農園の紅はるか、減農薬栽培で知られる九州りんご村のリンゴとオールスターキャスト。コメは食味ランキングで9年連続「特A」となった「さがびより」だ。

 まずは木箱に3品を盛り合わせた“bento”とスープから始まり、そこから色とりどりの趣向を凝らしたスイーツが続く。合わせるスパークリングや白、赤のワインも九州産。グラス、食器、カトラリーも地元の職人たちが手掛けている。

 今年は3月から博多―ハウステンボス間で運行を開始する予定。ゆったり3時間、特別な九州を体験できるはずだ。

(問)JR九州或る列車ツアーデスク(℡092・289・1537)

完全分業の手仕事で仕上がる器

 佐世保市と県境を挟んで隣接する佐賀県有田町は、日本の磁器のふるさとだ。400年以上前、朝鮮人陶工の李参平が同地の泉山で磁器の原料となる陶石を発見、磁器の一大生産地となった。

「もともと有田には人が住んでいなかったのですが、陶祖・李参平によって発展してきました。李はその功績から武士の身分と金ケ江三兵衛という日本名を与えられています。有田の地名は、韓国語で『美しい土地』を意味する『アルムダウン・タン』に由来するという説もあります」(有田観光協会専務理事の山口睦さん)

 泉山での採掘は現在、ほとんど行われていない。より使い勝手がいい熊本県天草の陶石が使われているという。もっとも有田焼が世界で認められるようになったのは、原料となる陶石の質が良かったからにほかならない。「今右衛門窯」「柿右衛門窯」と並び「有田の三右衛門」に数えられる「源右衛門窯」の社長・金子昌司さんは「白さ、耐火性、粘性の三拍子がそろった陶石です」と強調する。透明感のある白さと心地よい重量感は、石をパウダー状に砕き1300度で焼き上げる磁器ならではのものだ。

 源右衛門窯に50人ほどいる職人は完全分業制で、型を作る人、成形する人、下絵を付ける人たちによる工程を経て、1つの器が出来上がっていく。一部の窯では積極的に機械化を進めているというが、源右衛門窯は昔ながらの手仕事が中心。それだけに器は少し値が張るが、長く使いたいと思わせる味わいがある。

 有田は街歩きも楽しい。その景観はユネスコ世界遺産の諮問機関イコモスの日本組織による「日本の20世紀遺産」にも選出された。町内には159の伝統的建造物が軒を連ねる。

 耐火レンガの廃材を赤土で固めた「トンバイ塀」は、有田特有のものだ。窯元をぐるりと囲い、外からの視線を遮断した。

「有田は秘密主義で、陶工の技術が漏洩しないように情報管理を徹底していました。商談をする際も、第三者に盗み聞きされないように自宅に招いたほど。そのため、飲み屋や旅館が発達していないのです」(山口睦さん)

 李参平を祭った「陶山神社」は大鳥居や狛犬も、有田ならではの陶器製。境内を横切る佐世保線の踏切は警報だけで遮断機がなく、テレビ番組で「珍百景」として紹介されたこともあるそうだ。

 (取材・文=二口隆光)

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