京都府福知山市 “鬼伝説”と“ほどよい田舎”の原風景で注目
京都府の北部に位置する福知山市には「鬼伝説」とともに美しい里山が残っている。近年は、そんな土地柄を気に入り、移住する人も多い。日本の原風景が残る「ほどよく街で、ほどよく田舎」を訪れた。
◇ ◇ ◇
朝廷につかわされた源頼光ら6人が大江山を訪れ、鬼に毒となる酒を飲ませて酒呑童子を退治する――鬼伝説の中でもっとも有名なのが、この酒呑童子の物語だ。ときは平安時代。歯向かう勢力を鬼になぞらえ、朝廷の力をアピールする狙いもあったようだが、昨今は再び“鬼”が騒がしくなり、注目されている。
そんな鬼にまつわるあれこれを集めたのが、大江町にある「日本の鬼の交流博物館」(℡0773・56・1996)だ。全国各地の資料や時代別の鬼瓦のほか、世界の鬼面や仮面も展示している。
最先端の技術を取り入れた「毛原」の里山
市街地から大江山に向かう途中には、「日本の棚田百選」にも選ばれた美しい棚田が広がる毛原集落がある。ここでは田植えや稲刈り、山菜採り、果物収穫といった農業体験ができるほか、日本の原風景のような里山を散策したり、古民家の縁側を使った「縁側喫茶」で地元の人たちと語らうことができる。
ただし、この集落の魅力はそれだけではない。ゲストハウス「サライ」を経営する自治会長の櫻井一好さんは、「毛原の里山が1000年先まで続くことを目標に、住民全員でさまざまな取り組みを行っています」と言う。13世帯30人の小さな集落ながら、全戸でWi―Fiの環境を整え、SNSで情報を発信。独自通貨「けーら」を発行し、スマートスピーカーを活用したネットワークの構築にも取り組む。スローライフと最先端が共存する驚きの里山なのだ。年間を通じてさまざまなイベントも行われているので、立ち寄る前に「毛原の棚田ワンダービレッジプロジェクト」(℡090・1024・0531、水口一也代表)に確認を。
近くには、「元伊勢内宮皇大神社」「元伊勢外宮豊受大神社」「天岩戸神社」の元伊勢三社もある。天照大神のご神体が奈良から伊勢に移る前に一時的に祭られたとされ、多くの参拝者が訪れている。
本物の漆で「金継ぎ」
市街から西に向かった夜久野エリアは、西日本を代表する漆の生産地だった。
農産物の販売所や温泉、宿泊施設を併設した「道の駅農匠の郷やくの」内にある「やくの木と漆の館」(℡0773・38・9226)では、本物の漆を使った漆塗り、金継ぎを体験できる。
体験用の器などは用意されているが、「自作の木工品はもちろん、欠けた茶碗や湯飲みを持ち込まれる方も少なくありません。これをやりたいということがあれば、事前に相談してください」(スタッフの高島麻奈美さん)。
リモートワークが可能な現役世代にもオススメだ。
(取材・文=二口隆光/日刊ゲンダイ)
余白のある暮らし
現在の福知山市は旧福知山市、旧大江町、旧夜久野町、旧三和町が合併して1つの自治体を形成している。生活に必要な施設は旧市街地に集まり、旧3町エリアには田園風景が広がる。そんな「ほどよく街で、ほどよく田舎」という特色は住みやすさにつながっており、合計特殊出生率は2.02と本州の市としては3番目の高さ。近年は移住者も多く、2020年度は前年度比で1.7倍だ。
兵庫県尼崎市出身の洞ケ瀬圭さんも移住者のひとり。京都府の委託職員「里の公共員」として、地域の情報を発信したり、地元住民や旅行者が気軽に立ち寄れるサロンを運営したりしている。もともと長野県で地域おこし協力隊をしていたが、実家に近い関西で移住先を探し、三和町に落ち着いた。
「田舎といっても日々やることがあり、忙しいのは忙しい。ただ、時間の流れ方に余白がある感じがします。もともと自然に近いところにいるとホッとするし、住民もみなさんフレンドリー。京都というよりは大阪に近いですね」
最長1年間のお試し住宅
市の中心部でセレクトショップ「tomtom natural market」を経営する大江町在住の増茂友美さんは、宮城県出身の移住者。
「街にいて楽しいのは、映画でも買い物でも外部からの刺激があるから。自然とつながると少し違う。四季の移ろいなどを感じながら、内側から楽しさが湧き出て来ます」
三和町と大江町には移住のお試し住宅も用意されている。使用料は最初の3カ月間は無料で、最長1年間住むことができる。そのほか、希望者のリクエストに応じた「福知山暮らし体感ツアー」も実施。詳しくは「FUKUFUKULIFE」で検索。