重感染、スーパー感染…新型コロナに続くインフルエンザ流行の備えはどこまで?

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 新型コロナウイルスの感染拡大がようやく一息ついたと思いきや、今度はインフルエンザの感染に注意だ。日本感染症学会は今冬に向けてインフルエンザワクチンの積極的な接種を推奨する、との声明を発表したが、どこまで備えればよいのだろうか。国立病院機構京都医療センターの林琢磨氏(がん医療研究室室長)に聞いた。

 ◇  ◇  ◇

 ――あらためて、インフルエンザは何が原因で、どのような流れで感染が広がるのでしょうか。

 COVID-19(新型コロナウイルス)の感染が拡大する前、毎年のように流行していた季節性インフルエンザウイルスには、大きく分けて「インフルエンザウイルスA型」と「インフルエンザウイルスB型」があり、毎冬になると、A型やB型の変異体が流行を引き起こしていました。

 これらの変異体のオリジナルウイルスは、鳥インフルエンザウイルスであると考えられており、白鳥やカモなどに感染している鳥インフルエンザウイルスが、感染宿主(白鳥やカモなど)内で少しずつ遺伝子変異を繰り返しながら変異体となったものです。一般的には鳥インフルエンザウイルスはヒトには感染せず、豚に感染しているインフルエンザウイルスはヒトに効率よく感染します。

 白鳥やカモなどの渡り鳥が、中国南部やカンボジアやベトナムなどの東南アジアに飛来することが、季節性インフルエンザウイルスの流行の起因といわれています。中国南部や東南アジアには、同じ敷地内に多数の養鶏場と養豚場が存在し、インフルエンザウイルス変異体はまず、同地域に飛来した白鳥やカモの糞便に混ざって排泄され、それが養鶏に感染。さらに、養鶏に感染した変異体が養豚に感染し、変異を繰り返すことでヒトへと感染しやすくなるのです。

 このヒトに感染しやすくなったインフルエンザウイルス変異体は、やがて養豚場の飼育員に感染し、地域の住民間で感染流行が起きる。そして、今のようなグローバルな人流(国際線が自由に往来)を通じて、世界各国へと流行が広がっていくのです。

 ――新型コロナ対策の効果もあり、昨シーズンは、インフルエンザは流行しませんでした。なぜ、今年は警戒が必要なのでしょうか。

 新型コロナ感染拡大の予防のため、今は世界中でグローバルな人流が抑制されています。その結果、2020年冬季には、季節性インフルエンザウイルスの流行が世界中で起こりませんでした。しかし、今年はすでに10月の時点で、南アジアやインド、中東各国で、季節性インフルエンザウイルスの流行が起きています。従って、日本でも、国境を超える人流移動が再開(空港での出入国の規制緩和)されれば、季節性インフルエンザウイルスの流行が生じるのは自然です。そのため、新型コロナウイルスと季節性インフルエンザウイルスに対する水際対策が重要課題となっているのです。

 ――今のようにマスク着用とうがい、手洗いの励行でインフルエンザ感染は十分、防げないのでしょうか。

 WHO(世界保険機関)の基準によると、季節性インフルエンザウイルスの感染予防対策として、マスク着用は指定されていません。マスク着用やソーシャルデイスタンスなどは、季節性インフルエンザウイルスの感染防御策として有用と思われるものの、流行の抑制としてはグローバルな人流の規制がより効果的です。とはいえ、マスク着用やソーシャルデイスタンスなどは必要でしょう。

新型コロナ、インフル両ワクチン接種の間隔期間は2週間以上に

 ――インフルエンザワクチンを接種する必要性はあるのですか。

 インフルエンザの治療薬は大きく分けて、飲み薬、吸入薬、点滴の3種類があります。飲み薬はタミフル、ゾフルーザ、吸入薬はリレンザ、イナビル、点滴はラピアクタという薬です。これらは、体内でインフルエンザウイルスが増殖するのを抑える抗ウイルス作用があります。

 インフルエンザ検査は発熱後12〜24時間でないと正確な診断ができません。またインフルエンザ治療薬は発症から48時間以内に服用または投与されなければ抗ウイルスとして効果的ではありません。20年3月~今年10月初旬の時点までで、日本国内では季節性インフルエンザウイルスの感染者数が極めて少なく、そのため、日本人の季節性インフルエンザウイルスに対する抗体価および免疫応答は低くくなっていると考えられ、インフルエンザ感染による重篤な症状を予防するためにはワクチン接種が必要と考えられているのです。

 日本感染症学会が季節性インフルエンザウイルスのワクチンの積極的な接種を推奨、との見解を示したのも、このためです。

 ――今の時点で、インフルエンザワクチンに対する国民の関心はあまり高くありません。

 20年~21年冬季に季節性インフルエンザウイルスの流行が起こらなかったことや、新型コロナワクチン接種と同様、日本国内ではワクチン接種の安全性について不安を抱いている人がいるため、注意深くなっているのでしょう。各製薬メーカーは、新型コロナと季節性インフルエンザのワクチンを同時に製造しており、資材などが世界的に不足しつつあります。今後、季節性インフルエンザウイルスのワクチンの供給が遅れる可能性も考えられます。

 ――新型コロナワクチンの接種率が上がる中、インフルエンザワクチンを接種しても人体への影響はないのでしょうか。また、これからコロナワクチンを接種する人は、インフルエンザワクチンと接種の間隔などをどう考えればいいのでしょうか。

 新型コロナと季節性インフルエンザの両ワクチンを同時期に接種した場合による生体への安全性については今のところ、医学的エビデンスが十分得られていません。そのため、厚生労働省は、新型コロナワクチンの接種と季節性インフルエンザウイルスのワクチンの接種は2週間以上開ける必要性を示しています。今後、海外での臨床研究などの医学的エビデンスにより、両ワクチン接種の間隔期間は変更される可能性があるでしょう。

 欧米では、新型コロナワクチンと季節性インフルエンザウイルスワクチンの同時接種が行われていますが、健康上での問題はほとんど報告されていません。すでに米国のノババックス社は、新型コロナと季節性インフルエンザの混合ワクチンの効果と安全性を確認するため、被験者640人を対象とした臨床試験を開始しているほか、モデルナ社も、同混合ワクチンの効果と安全性を確認するための臨床試験が検討されています。

仮にインフルエンザが流行したら…

 ――仮にインフルエンザが流行した場合、ウイルス干渉(あるウイルスが流行すると他のウイルスが流行しない)によってコロナ感染の危険性が抑えられるとの見方もあります。あるいは逆のケースも考えられますが、どう見ますか。

 日本人を含む世界中の人々が、季節性インフルエンザウイルスとSARSコロナウイルス2の「重感染」、新型コロナ感染後の季節性インフルエンザウイルスによる「スーパー感染」を心配しています。

 新型コロナ患者のインフルエンザウイルスの同時感染(重感染)の頻度は、アジアで4.5%、米国では0.4%。世界中で報告された臨床研究の結果を統合したメタ解析によると、新型コロナ患者の19%が「重感染」を起こし、24%が「スーパー感染」を起こしていました。「重感染」や「スーパー感染」は、死亡率の増加を含む重症化への転帰と関連しています。

(ウイルス干渉については)例えば、SARSコロナウイルス2の武漢型とアルファ型(それぞれ100個)をハムスターに同時感染させ、感染2カ月後の経過をみると、ハムスター内のウイルスは全てアルファ型となるという研究結果が報告されています。異なるウイルスが、同じ宿主に感染した場合、生存力が強い(感染力が強い)方が、宿主の生体内で増殖する傾向がみられるほか、ウイルスの生存力と重感染の成立との関連性の可能性も指摘されています。

 日本国内では、三重県で、新型コロナと季節性インフルエンザウイルスの「重感染」の症例が報告されました。感染症の重症化を防ぐためには、新型コロナ、季節性インフルの両ワクチン接種が好ましいでしょう。

(聞き手=遠山嘉之/日刊ゲンダイ) 

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