著者のコラム一覧
片岡健ノンフィクションライター

1971年、広島市生まれ。早稲田大学商学部卒業後、ノンフィクションのライターに。新旧様々な事件を取材し、新事実や冤罪を発見している。著作に『平成監獄面会記』、同書が漫画家・塚原洋一氏によりコミカライズされた『マンガ「獄中面会物語」』(共に笠倉出版社)、『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)など。最新刊は2026年4月発行の『実録 死刑囚26人の素顔』(宝島SUGOI文庫)。

「今市事件」服役中の勝又拓哉受刑者「『有希ちゃんを殺してごめんなさい』って50回言わされた」

公開日: 更新日:

勝又拓哉受刑者(40)

 2005年に栃木県今市市(現・日光市)の小学1年生、吉田有希ちゃんが失踪し、他殺体で見つかった「今市事件」。無期懲役刑に服する勝又拓哉受刑者(40)については、裁判中から冤罪を疑う声がよく聞かれた。彼は今、どうしているのか。

  ◇  ◇  ◇

「お久しぶりです!」

 6月初旬、勝又受刑者の母S子さんと一緒に訪ねた千葉刑務所の面会室。緑色の囚人服姿の彼が明るい声とともに現れた。私は、彼が裁判中によく面会していたが、東京拘置所で最後に会った2年前と、ずいぶん印象が変わったことに驚いた。

 当時の彼は肥満気味で、表情は眠たそうで、話し方もたどたどしかった。

 しかし久々に会った彼は、コロナ対策でマスクをしているが、目がイキイキして、体もスリムになっていた。そのことに水を向けると、彼は「筋トレをしているからね」と爽やかな感じで言った。

「拓哉は裁判の頃、睡眠薬を飲んでいて、普段と違う感じになっていたんです。今が本当の拓哉なんですよ」

 とS子さん。勝又受刑者によると、裁判中は独房に収容されたが、千葉刑務所では4人部屋になった。それが本来の自分を取り戻すうえで大きかったという。

「独房の頃は普段、誰とも話せなかったけど、今は同じ部屋の人たちと話せるからね」

 そう語る彼に、「元に戻るまで8年かかったね」とS子さんがしみじみと言った。

 8年前の2014年1月、勝又受刑者とS子さんは、出身国の台湾で買いつけた偽ブランド品を販売目的で所持していたとして、商標法違反の容疑で栃木県警に逮捕された。

 県警は、有希ちゃんが失踪した翌日の未明、勝又受刑者の車が宇都宮市内を行き来していたNシステムの記録などから疑いの目を向けていた。彼はこの別件での勾留中、今市事件の容疑を追及されて自白し、再逮捕された。

 その後、彼は裁判で無実を訴えたが、20年に無期懲役刑が確定。この間、冤罪を疑う声が湧き上がったのは、客観的証拠が乏しく、有罪の根拠が事実上、自白のみだったためだ。

 なぜ、自白したのか。改めて聞いてみると、彼は「刑事の取り調べがえぐかったからね」と言った。私はこの答えを聞き、彼が1審・宇都宮地裁の裁判員裁判で無期懲役判決を受けた時のことを思い出していた。

 裁判員たちが彼の自白を信用した一番の要因は、録音録画された検事の取り調べで涙ながらに自白する映像だった。この1審判決の3日後、彼は宇都宮拘置支所の面会室で悔しそうに言った。

「僕は、録音録画されていなかった刑事の取り調べで『有希ちゃんを殺してごめんなさい』って50回言わされて、『検事に無実って言うなよ』って言われて、検事に無実だと言えなかったんだよね」

 彼はこうも言った。

「刑事から『家族が責任とらされるぞ』とも言われたんだよね。それで、一緒に逮捕された母を早く外に出してあげたいと思ったんだよね」

 S子さんは当時、重い病気を患っていた。母を心配する思いも自白した原因だったというのだ。

 この時も面会に同行してくれていたS子さんは、彼に「誕生日なのに『おめでとう』と言えないね」としんみりと言っていた。この日は34歳の誕生日だった。

 あれから6年が過ぎ、今年4月、獄中で40歳になった。逮捕された頃は青年のような風貌だったが、現在の彼は丸刈りで、額の生え際が後退している。

「おじさんになっちゃったね」とS子さんに言われ、彼は笑っていたが、切ない思いがないわけはないだろう。

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