「病気の診断名」がすべてではない…目の見えない精神科医が“人間は多面体”の考えを大事にする理由

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 患者さんの心の中に潜む悩みや苦しみに寄り添う。視力を失った全盲の状態でそんな仕事を行っている人がいます。

 その名は、福場将太さん。北海道美唄市で精神科医として従事する彼は、徐々に視野が狭まる病によって32歳で完全に視力を失いました。それでも精神科医として10年以上にわたり、患者さんの心の病と向き合っています。

「どうしても大きく捉えられてしまいがちな視覚障害者であることも、精神科医であることも、まるきり私の全てではありません」と言う福場さんが伝えたいことの一つが、「人間は多面体」であるということ。初の著書「目の見えない精神科医が、見えなくなって分かったこと」(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けします。

  ◇  ◇  ◇

 ボードゲームなどで使われるサイコロは、6つある面のそれぞれに「1」から「6」までの数字が書かれています。「1」が書いてある面だけをサイコロと呼ぶのではないし、「2」と「3」の面だけを合わせてサイコロと呼ぶのでもない。6つの面、全てをひっくるめて1つのサイコロです。

 私は、人間もサイコロのように「色々な面を持つ存在」だと考えています。

 どうしても大きく捉えられてしまいがちな視覚障がい者であることも、精神科医であることも、まるきり私の全てではありません。それらはただの一面に過ぎないのです。

 だから私は、「精神科医の福場です」という挨拶はできるだけしないようにしています。代わりに使うのが、「私は福場将太です。仕事は精神科医です。持病は網膜色素変性症です」という言葉。

 もしかしたら聞いた人は、「え? お医者さんなの? 患者さんなの?」と戸惑われるかもしれません。ですが、それは先入観や思い込みが生じにくくなるということ。まっさらから私という人間を知ってもらうきっかけになると思っています。

 これはぜひ患者さんたちにも伝えたいことですが、「診断名」というものはその人のほんの一面を評価しているに過ぎません。うつ病の人でも足腰は元気だったり、緑内障の人でも聴力は抜群だったり、障がいを診断されたからといって全ての面が病んでいるということでは決してないのです。

 心理検査や視力検査に、その人の優しさやひたむきさは反映されません。しかしそれだって、確かなその人の一面であり、誇れる魅力。医学は人間を測る無数の物差しの中の、たった一本でしかないということを忘れないでくださいね。

 患者さんに限らず、役割とか肩書きとかで自分を「一面的」に捉えてしまう人はたくさんいます。ですが、そんなふうに1つの面を「これが自分だ!」と思ってしまうと、辛くなってしまう場合があります。

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