湯島「岩手屋」でホヤをつまみに喜寿超えのマダム2人と日本酒談議
酸味の後に海の香りが…
アタシはまず生小(490円)で喉を潤す。壁には武骨な文字で書かれたお品書きがズラリ。日本酒に合うつまみばかりだ。迷った挙げ句、イカの三升漬け(500円)とお目当てのホヤ(650円=写真)をチョイス。この肴なら酔仙本醸造の樽酒(800円)でしょ。正一合の徳利とぐい飲み、これがまたいい。軽く酢で締めたホヤを口に放り込むと、酸味の後に海の香りが口中に広がり鼻に抜ける。目を閉じれば三陸の海が浮かんできそうだ。そこに木の香りの酔仙をぐびり。サイコ~。次は三升漬けを放り込んで噛みしめる。ピリッとした中からイカの甘みが広がる。そこに酒が追いかける。これまたサイコ~。これはいけませんよ。いくらでもイケますよ、ってどっちやねん!
そこに常連らしき上品な大先輩マダム2人がお出まし。3代目と会話をしながら刺し身をつまみに日本酒を味わっている。「あたしは南部美人の冷たいのが好き」「あたしはお燗がいいわね」、隣のマダムと目が合い、「こちらはお燗?」「いえ、僕は冷やでいただいてます。でもお燗もけっこうですね」。思わず言葉遣いが丁寧になる還暦男。きっとマダムたちは喜寿を超えるお年頃。自然とこっちも居住まいを正してしまう。猥雑な大衆酒場でチューハイを飲みながらおだを上げるのもいいが、偶然出会ったこんな方々と酒を共にすることができるのも老舗酒場の良いところだ。
ところで、以前このコラムで文京区はメリハリがないなどと大変失礼なことをいってしまった。不明を恥じ、この場を借りておわびします。なんたって天神下のこの一角は他ならぬ文京区ですからね。 (藤井優)
○岩手屋本店 文京区湯島3-38-8