時代を超えた名古屋「大甚」の異空間…広い土間、古い大きなテーブル、小皿に盛られた肴
賀茂鶴の4斗樽が鎮座、その前には徳利がズラリ
それはともかく、まだこのときは帰りの新幹線の時間をしっかりチェックする理性は機能しているが、引き戸を開けて店内に一歩入れば時代を超えた異空間に誘われ、そんなことは忘却のかなた。広い土間に大きな古いテーブルがいくつも置かれ、客はみな相席で酒を酌み交わしている。入ってすぐ左には広島の銘酒賀茂鶴の4斗樽が鎮座している。その前には徳利がズラリ。アタシはその樽を背にした席に案内された。こりゃ、いくらでも飲んでくれい、と言わんばかりの席ではないか。
横には数種類もの肴が小皿に盛られてテーブルの上に載っている。そのうまそうなことといったら。奥の厨房の前では刺し身や煮炊き料理の注文を受けている。なかなかここの注文は慣れていないとややこしいが、ベテランになるとササッと注文して小鉢を2、3品持ってきて悠々と酒を飲んでいる。あれくらいになるには伏見に引っ越して毎日通わなければ無理だろう。アタシは厨房での注文はあきらめうまそうな小鉢に狙いを定めることに。まずは生ビールと牛筋煮込みといわしの煮つけ(写真)から。その間、客が次々と入ってくる。さすがに外国人観光客はいない。日本人と一緒じゃないと、彼らだけでは入りにくいのだろう。
さあ、いよいよ賀茂鶴の樽酒といこう。冷(常温)で注文すると大甚と書かれた2合徳利が目の前に。飲む前につまみを追加しよう。タコの柔らか煮、穴子煮でどうだ。穴子を口に放り込み、お猪口をグイ! サイコ~。まさに至福の時間である。
お燗番は3代目の女将さんが担当。4代目は厨房を守っている。まさに家族経営。これなら間違いない。2本目を頼もうとして理性が蘇った。いかん、新幹線の時間が!涙をのんでお勘定。そこは5つ玉のそろばんを抱えた3代目が担当。「時間を縫ってやっとお邪魔できました。酒もつまみもすべておいしかったです」「それはようございました。またお越しください」。優しい笑顔の3代目に送られて、ちょっと物足りないアタシは後ろ髪を引かれつつ名古屋駅に向かったのでした。 (藤井優)
○大甚本店 名古屋市中区栄1-5-6