高市早苗発言で“炎上”…奈良公園を歩いて聞いて、そして見えた「シカと人の意外な関係」
ツノが4センチ胸に突き刺さって救急搬送…
ただ、シカをいじめる動画はネット上に存在する。毎日何万人も集まるのだから、どこかで暴力行為が起きても不思議ではない。しかし、そもそも人によって「暴力」の捉え方にも大きな幅があるようだった。
春日大社参道沿いに事務所を構える「奈良の鹿愛護会」を訪ねると、中西康博副会長が取材に応じてくれた。
「我々としても、たとえば攻撃的なシカを反射的に手で払う場面はよく見かけますが、それは人間が身を守るための自然な反応で、仕方のないことだという認識です。かじられるだけでもけっこう痛いんですよ。外国人についてですが、事実として、観光客がシカをいじめたという通報は今までゼロ。我々も常時パトロールしていますが、現場を押さえたこともない。実際に起きている可能性は否定できませんが、日常的に頻発しているわけではないと思います。それでも、万が一そのような行為があれば、奈良の鹿は国の天然記念物ですから、文化財保護法違反として警察に通報する体制は整っています」
■繁殖期のオスは気が荒くなる
逆に、人間がシカに“暴力”をふるわれるケースがあるという。
「8月末から12月までは繁殖期で、特にオスはストレスがたまって気が荒くなる。突き飛ばされて大腿骨を骨折したり、側溝に落ちて泥まみれのまま脳振とうで動けなくなったり、つい最近は角が胸に4センチも刺さって救急搬送された子供も……。ここを“触れ合い動物園”と勘違いしている外国人もいますが、シカは、れっきとした野生動物。顔を近づけたり、無防備に触るのは大変危険です。それを正しく認識したら“お互い”もっと過ごしやすくなるんですけどね」(前出の中西副会長)
シカへの暴力についての実態は、映像や発言の一部だけを切り取っても答えは出ない。確かなのは、奈良公園には人とシカの間に静かな緊張感が張りつめているということだ。
(取材・文=杉田帆崇/日刊ゲンダイ)
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日刊ゲンダイDIGITALでは、奈良の鹿愛護会・中西康博副会長へのインタビューを公開中だ。同会の活動内容や現状など、とことん語ってくれた。詳しく知りたい方はご覧いただきたい。