著者のコラム一覧
大竹聡ライター

1963年、東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、出版社、広告代理店、編集プロダクションなどを経てフリーに。2002年には仲間と共にミニコミ誌「酒とつまみ」を創刊した。主な著書に「酒呑まれ」「ずぶ六の四季」「レモンサワー」「五〇年酒場へ行こう」「最高の日本酒」「多摩川飲み下り」「酒場とコロナ」など。酒、酒場にまつわるエッセイ、レポート、小説などを執筆。月刊誌「あまから手帖」にて関西のバーについてのエッセイ「クロージング・タイム」を、マネーポストWEBにて「大竹聡の昼酒御免!」を連載中。

(1)蕎麦の汁で飲む

公開日: 更新日:

 蕎麦をすすり切って、まだ残る酒をちびちびとやるひととき。ほぼ食べ終えたたぬき蕎麦の丼鉢の表面には、溶け残った天かすが浮き、ネギの切れ端が漂う。それを箸で掬いながら口へ運び、ぬるくなった酒を飲む。箸を入れては天かすを掬い、猪口を手にとっては酒を飲む。

 うまいのである。今度は丼鉢を持ち上げて縁から直に汁をすする。そして酒をすする。いよいよ、うまい。燗酒を追加する。酒を持ってきてくれた姐さんが丼を下げようとするのを制し、汁を肴にしばし飲む。

 私はこれを汁飲み、と呼んでいる。蕎麦の残り汁でなくてもよい。鍋でもおでんでも、味噌汁でも、なんでもいい。汁をすすりながら酒を飲む。

 この数年の間で、格別だったのは、大阪は都島の立ち飲み屋さんで飲んだ、粕汁だ。カツオ出汁。塩した鮭のアラ、ダイコン、ニンジン、ちくわ、コンニャクなどを入れ、酒粕を投入して煮込んだ汁ものだ。その店は、味噌を入れずに仕上げていたので、真っ白ないかにも濃厚そうな粕汁は、口にしてみると意外なほど穏やかな味わいで、品がいいのである。

 合わせたのは、たしか、「初雪盃」という銘柄のにごり酒だった。割りとさっぱりとしたにごり酒で、鮭の粕汁との相性はよかった。

 そんな組み合わせがふと頭をよぎるのも、秋から冬への、おいしい季節への期待感からだ。

 今号より、酒と酒場にまつわるお話をあれこれ開陳いたします。どうぞ、お付き合いのほど、お願い申し上げます。

【連載】大竹聡 大酒の一滴

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