(55)コロナの頃 ~その3~ 踏んだり蹴ったり
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頼んだのはラスティネール。それも田中さんオリジナルの、サントリーのブレンデッドの最高峰である「響」に和三盆を使った和製ラスティネールだ。
ドランブイという甘いリキュールの代わりに和三盆のシロップを用いていて、ほのかな甘さとキレの良さが独特。上品で、実にうまいウイスキーカクテルなのだ。
この1杯ですっかり元気になった私は、ショートピースを深々と吸い込み、コロナ禍と怪我によって萎縮しまくった自分を、ほんの一時、開放したのだった。
田中さんは私の好きな高田渡のレコードをかけてくれた。「生活の柄」で愉快な気分になり、「夕暮れ」でしんみりとノスタルジーに浸った。
店を出て、3階から1階までの階段を降りるとき、田中さんは私より先に下り、万が一私が足を踏み外しても背中で支えますよと、笑った。
今思うと、コロナ禍で客足が遠のく中でも客への心配りを忘れない店に励まされて、なんとか頑張ってこられたのかもしれない。
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