ヴィレッジインク 橋村和徳社長<1>廃校や無人駅は“宝の山”
ワーケーション(ワークとバケーションをミックスした造語)で全国を旅していると、各地でエッジが利いた人々に出会うことが多い。私は彼らを“愛すべき奇人・変人”と呼んでいる。
■日経トレンディ「2021年ヒット予測ランキング」1位
静岡県下田市にあるヴィレッジインクの橋村和徳氏もそのひとり。キャンプ場運営をメイン事業とする同社の創業から9年目の2020年、日経トレンディの「2021年ヒット予測ランキング」の1位に選ばれた。1位になった当該コンテンツは、「無人駅&辺境グランピング」である。
そのひとつが、群馬県みなかみ町のJR東日本・土合駅の利活用だ。1日の乗降客数約20人の無人駅の駅舎をカフェに、インスタントハウスと呼ばれる簡易断熱テントを宿にして、さらには大流行の野外サウナも備えた施設を造った。
このような辺境・秘境は、橋村氏の“大好物”。
「そこには廃校、無人駅、耕作放棄地などの遊休地があり、新しい観光コンテンツとなり得るからです。廃れゆく自治体への人口流入を狙えますし、施設の初期投資はリノベーションと動産設備がメインなので、コスパも良い」と語る。
さらに今年1月には福岡県の糸島半島の耕作放棄地に「唐泊ヴィレッジ」を開村。グランピングはもちろん、よそ者が村民になって、“リアルあつまれどうぶつの森”のような村づくりに参画できる場も発足した。また、同県うきは市の廃校となった小学校で、校庭をオートキャンプ場に、教室を暖炉付き宿泊スペースに予定するなど“攻め”の姿勢が続いている。
そう、コロナ禍であろうと橋村氏が弱気になることはない。
1973年、第1次オイルショックの年に佐賀県唐津市に生まれた橋村氏。テレビ局の営業パーソンを経て、ITベンチャーの起業に参画し、営業本部長として9年間勤務。同社は途中IPOも果たした。
「その頃は“ゴリゴリの営業”スタイルを求めていたので、周囲にはメンタルを病む者が多くて……。心のケアの一環として、大自然と触れ合う大人のキャンプに部署のメンバーで行ったところ、チームワークが高まった。離職率が低くなり、生産性もアップ。これはビジネスチャンスになるかも、と思いました」
その後、新規市場を開拓するために中国に渡るも、キャンプ事業への思いが募っていったそう。静岡県西伊豆に、船でしか行けないグランピングに最適な場所を見つけたので、退職して日本に帰国。橋村氏いわく、西伊豆の空き地に“不法侵入”して、“一人DASH島”のように、黙々とキャンプ村づくりに励む。
そのうち経済的に苦しくなり、手元にある全財産をつぎ込んでヴィレッジインクを創業した。創業以来、山あり谷ありの社長稼業だったが、橋村氏はどんな困難な局面にあっても「いつでもご飯をモリモリ食べますし、布団に入ればすぐ眠れます(苦笑い)」。
いやはや、この強靱なマインドは、一体どこで醸成されたのか? =つづく
(取材・文=東野りか)