激化する総合商社の利益トップ争い…伊藤忠、三菱、三井「3強」それぞれの思惑
総合商社の利益トップ争いが白熱している。
資源価格が高騰し、高止まりしたままだ。こうなると、三菱商事、三井物産の「2M」が、(2021年3月期に業界首位となった)伊藤忠商事よりも相対的に有利になる。このままいくと、三菱商事がトップの座を奪回し、垣内威彦社長(66)の退任(会長に就く)の花道を飾ることになりそうだ。
そうはさせまいと、ディフェンディングチャンピオンの伊藤忠は非資源分野の利益のカサ上げを狙う。資源のマス(量)の闘いでは、どう逆立ちしても「2M」に勝てないからだ。同社は日本産業パートナーズと折半出資でSPC(特定目的会社)を作り、日立建機の株式26%(取得価格は1825億円)を得て同社を持分会社にした。北米市場で日立建機の物流・金融事業を担う狙いとみられる。
伊藤忠はまた、「物言う株主」のおもちゃ(失礼!)になっていた西松建設に資本参加した。議決権ベースで10.16%の株式を手にし、実質的に筆頭株主になったのだ(取得額は145億円)。西松とは従来から共同で不動産開発事業を手掛け、工事の発注や資機材の調達で良好な関係にあったという。
伊藤忠は中国CITICから手を引くのか
伊藤忠の経営陣には一つのトラウマがあるといわれている。
かつて、いすゞ自動車が窮地に陥った時、関係が深かった伊藤忠は助け舟を出さなかった。いすゞは三菱商事に駆け込み、現在も三菱商事が第2位の大株主(21年9月期末で8.1%を所有)である一方、伊藤忠自動車投資合同会社は第3位の株主(同6.8%)に甘んじている。
「いすゞに新たに出資した三菱商事はその後、いすゞから大きな利益の〝果実〟を得た」(伊藤忠元幹部)
日立建機も西松建設も、マーケットインの発想でビジネスシナジーが見込めると判断しているものの、ある程度のリスクは覚悟して、「見る前に跳んだ」(伊藤忠元幹部=前出)という。
東京株式市場の一部には「伊藤忠が中国のCITIC(中国中信)から撤退するための準備に入った。M&Aを連発しているのはその一環」といったうがった見方が出ているが、「CITIC撤退の準備にしては、日立建機、西松建設とも投資案件として小粒過ぎる」(外資系証券アナリスト)と言い、前出の伊藤忠元幹部も、「一連のM&AにCITICからの撤退に伴う損失の穴埋めの一助にするという発想はない」と言い切る。
株式市場の見方は的外れなのだろうか? M&A合戦になる気配は濃厚である。
伊藤忠、三菱、三井の3強とも過去最高の利益へ
一方、M&A業界の有力筋によると、三菱商事は資源関連か、あるいはローソンの周辺などの小売り分野で、「グループを超えた大きなディールがあるかもしれない」という。
公表は1月中、遅くも2月初旬ではないか、との見方だ。
いずれにしても伊藤忠、三菱商事ともに、22年3月期連結最終利益が7000億円の大台を突き抜けるのは間違いない。
最終利益と1株当たり配当金は、三菱商事が7700億~7800億円、142~150円、伊藤忠は7500億~7600億円、110~120円と予想されている。
ダークホース的存在で「一発逆転を狙っている」と伝わる三井物産も最終利益が7200億~7300億円、1株当たり配当金は最大100円と想定されている。
3強とも過去最高の利益をキープすることはほぼ確実な情勢だが、果たしてどういう結末を迎えるのだろうか?
伊藤忠の“ドン”こと、岡藤正広会長CEO(72)は「22年3月期に頂に立ってこそ、初めて財閥系商社を完全に打ち負かしたといえる」とハッパを掛ける。元ラガーマンの石井敬太社長COO(61)も「トップにこだわりたい」と言う。
常務執行役員の中西勝也氏(61)を新社長に昇格させ、今後は三菱グループのリーダーとして“離陸”する三菱商事の垣内氏にとっても「負けられない戦い」に違いない。