東京・大井町、OIMACHI TRACKSと対照的な東小路飲食店街、商店街理事長が直面する2つの問題
“反対派”の動きでウワサが拡大する
土地の売買が進み、賃料も上がると、具体的な話が聞こえてきそうだが、そんな話は聞こえてこない。東小路では、実際に何が起きているのか。大井東口商店街振興組合理事長で、創業70年以上の「金井寿司」を営む平方啓友さんに聞いた。
「結論から言えば、今はウワサだけです。具体的な再開発の話は全くありません」
即答した上でこう続けた。
「それでも、近所の人から『再開発はいつですか』と何度も聞かれます。『そんな話はない』と答えると、『立場上、言えないだけでしょう。隠さないでよ』と返される。本当に参りますよ」
ウワサが絶えないのには理由がある。そのひとつは、前出の立ち飲みバーの店主が触れたような不動産業者による土地取得の動きだ。高輪ゲートウェイとともに進んだトラックスの開発でこのエリア一帯への注目度が上昇。「次は東小路ではないのか」との臆測も広がり、将来の開発や地価上昇を見込み、土地所有者に売却を持ちかける業者が後を絶たないという。
「ウチにも『店や土地を売る予定はありませんか?』という電話が、月に何本もかかってきます。再開発を期待する不動産屋はかなりいて、東京はもちろん、大阪の企業からも電話がある。タチの悪いことに、私に『再開発されますよ』なんて吹き込んでくることもあるんです」
“反対派”の存在も騒動に拍車をかけるという。
「まだ何も決まっていないのに、『再開発反対!』と運動を起こしている人たちもいます。主に親や先代から受け継いだ物件を貸して、家賃収入を得ている地権者です。今後の生活がどうなるのか不安なのでしょうが、彼らの声があまりにも大きいせいで、外の人からは“すでに計画が動いているのではないか”と誤解され、それがまた新たなウワサを呼ぶんです」
平方さんが懸念するのは、ありもしない大規模再開発よりも、すでに足元で進んでいる変化だ。
「いま、東小路は2つの問題に直面しています。ひとつは、土地が個人の所有物であるため、商店街として売却を止められないことです。代替わりを機に、相続した土地や建物を手放す人もいます。実際、所有者が代わって家賃が引き上げられ、営業を続けられなくなった店も出ています。もうひとつは、建物の老朽化です。路地が狭く、現行の建築基準では、いまと同じ広さを保ったまま建て替えることが難しい。内装の改修や建物の補強を重ねながら、使い続けるしかありません。10年後、東小路がどのような姿になっているのか。正直なところ、まったく想像がつきません」
複雑な権利関係と建物の老朽化を抱え、東小路は微妙な均衡の上に成り立っている。それでも、この路地には人を引きつける力がある。
「やっぱり、東小路ならではの雑多な感じがいいよね。店も客も狭い路地にギュッと集まっていて客同士の距離も近い。知らない人同士でも自然と会話が生まれて、気がつけば一緒に飲んでいる。今では珍しくなった昭和の横丁らしい温かさが残っています。トラックスがあっても、ここがなくなったら大井町にはもう来ませんね」(横浜から毎週通っているという男性客)
この先、東小路がどうなるのかは、誰にも分からない。それでも今夜も明かりがともり、酢客が引き寄せられてくる。



















