“仮死状態”が60回…芋洗坂係長が語る睡眠時無呼吸症候群の苦悩
芋洗坂係長さん(芸人/58歳)=睡眠時無呼吸症候群
夜中に急に電気がついたので何かと思って目を開けたら、大部屋に泊まっていた俳優7~8人全員が僕の顔をのぞき込んでいました。恐る恐る「いびきですか?」と聞くと、「そうだよ。鼻ちょん切るぞ」って言われて、仕方なくロビーのソファで一晩明かしました。前もって、みなさんに「いびきかきます」と告白したときは「いびきなんて誰でもかくよ」と和やかだったのに、許されないレベルだったようです。
「いびきがうるさい」「呼吸が止まっている」と言われるようになったのは30歳になった頃です。当時は「睡眠時無呼吸症候群」という言葉も、治療できることも知りませんでした。
いびき防止用に鼻に貼るテープや、鼻の奥に塗る塗り薬を使っていましたが効果なし。ちょうど劇団の座長と同居していた頃で、ある朝、「昨日は何かあったのか?」と座長に聞かれたので、「滑らかになる薬を塗りました」と答えると、「どうりで発声練習かと思うほどクリアないびきだった」と言われました。
家に劇団の後輩が泊まりに来たときは、深夜にふと目覚めると後輩が正座していたので事情を聴いたら、僕が「コラーッ!」と言ったように聞こえたそうです。「怒られたと思って正座していました」と……。そんな状態でした。
治療ができると知ったのは40歳になってから。製薬会社に勤めていた友人が「呼吸器内科にいい先生がいる」と教えてくれたのです。今は睡眠クリニックや無呼吸症候群に関する専門病院もありますが、当時はなかったと思います。早速受診して、睡眠時の呼吸を調べる検査キットを自宅で試した結果、血中酸素濃度は78%と極端に低く、一晩に70回も無呼吸状態になっていると言われました。ちなみに無呼吸とは、睡眠時に呼吸が10秒以上止まること。僕は1分間止まることもざらにあり、脳への酸素供給が10秒以上止まってしまう“仮死状態”が60回あったと聞きました。
「いつどんなタイミングで死んでもおかしくない最重症」とのことで、その日からCPAP(鼻に空気を強制的に送り込む装置)を使い始めました。初めのうちは無意識に鼻のマスクを外してしまいましたが、1~2カ月すると慣れてきて普通に眠れるようになりました。
そこから、劇的に体調が改善しました。日中の眠気がなくなったのです。以前は「眠いな」と思ったらもう意識が飛ぶ、いわゆる寝落ち状態でした。舞台の演出中でも大事な打ち合わせ中でも寝てしまい、相手の方が「ふざけんな!」と怒って帰ったこともあります。
一番怖かったのはバイクの後ろに人を乗せて、信号待ちで止まっていたら、知らぬ間にバイクが傾いて倒れそうになったときです。その日は後ろに乗った人からヘルメットをバンバン叩かれ、「寝るなー!」と言われながら走ったことを覚えています。無呼吸のせいだと知らなかった頃とはいえ、あれで転んでいたら……と思うと恐ろしい。
夜中にトイレに起きることもほとんどなくなりましたし、胃液でむせることもなくなりました。無呼吸で1分ほど呼吸が止まると、呼吸を再開するときに胃液が持ち上がってくるので、喉がひどく痛くなり怖いのです。「もう寝たくない」と言いつつ、でも寝るという日々でした。


















