【寄稿 小川邦和】衣笠祥雄は弱者に優しく、ときに厳しく

公開日: 更新日:

■十八番は「聖者が街にやってくる」

 地元の広島でも衣笠の評判はよかった。タクシーの運転手は、「○○のところに迎えに行くのは嫌だが、衣笠のところには行きたい」と話していた。衣笠が誰に対しても偉ぶらず、自然に接していたからだろう。

 衣笠の娘さんが友人とタクシーに乗ったとき、娘さんだと知らない運転手から、「ワシは衣笠の大ファンや」と言われて、どう返事していいか恐縮したとも聞いた。

 歌もうまかった。独特の雰囲気、リズム感を持ち、アメリカのジャズ「聖者が街にやってくる」などは玄人はだしだった。ただ、それをひけらかしたりすることはない。また服装のセンスもよかった。

 選手としての実績も人柄も素晴らしいのに、広島の監督にはならなかった。聞いた話では、本人の強い意志だったそうだ。選手としての晩年に当時の松田オーナーから「現役を辞めたらカープの監督に」と要請されたものの、「私はやりません」と丁重に断ったという。

 監督の重責や家族の負担、少年時代からの苦労、自己顕示欲のなさ……さまざまな要因が重なって、そう決断したのかもしれない。野球人としても人としても、球界は得難い人材を失った。合掌。

(小川邦和・野球評論家)

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    新生阿部巨人は早くも道険し…「疑問残る」コーチ人事にOBが痛烈批判

  2. 2

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  3. 3

    阪神「次の二軍監督」候補に挙がる2人の大物OB…人選の大前提は“藤川野球”にマッチすること

  4. 4

    阪神・大山を“逆シリーズ男”にしたソフトバンクの秘策…開幕前から丸裸、ようやく初安打・初打点

  5. 5

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  1. 6

    創価学会OB長井秀和氏が明かす芸能人チーム「芸術部」の正体…政界、芸能界で蠢く売れっ子たち

  2. 7

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  3. 8

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  4. 9

    大死闘のワールドシリーズにかすむ日本シリーズ「見る気しない」の声続出…日米頂上決戦めぐる彼我の差

  5. 10

    ソフトB柳田悠岐が明かす阪神・佐藤輝明の“最大の武器”…「自分より全然上ですよ」