六川亨
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六川亨サッカージャーナリスト

1957年、東京都板橋区出まれ。法政大卒。月刊サッカーダイジェストの記者を振り出しに隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長を歴任。01年にサカダイを離れ、CALCIO2002の編集長を兼務しながら浦和レッズマガジンなど数誌を創刊。W杯、EURO、南米選手権、五輪などを精力的に取材。10年3月にフリーのサッカージャーナリストに。携帯サイト「超ワールドサッカー」でメルマガやコラムを長年執筆。主な著書に「Jリーグ・レジェンド」シリーズ、「Jリーグ・スーパーゴールズ」、「サッカー戦術ルネッサンス」、「ストライカー特別講座」(東邦出版)など。

仮設だらけだった天皇杯決勝 新国立競技場で感じた“無力”

公開日: 更新日:

記者会見場も臨時の狭い会議室に

 そろそろ本題に。それにしても、新国立の未完成ぶりには驚かされてしまった。

 メインスタンド中央に設けられた記者席は仮設だったし、試合後の記者会見場も臨時の狭い会議室をあてがわれた。

 そもそも本来の記者席が設けられている3層スタンドのエリアは今回、一般客用に販売したので使用できなかった。

 新国立で最初の公式戦となった天皇杯サッカーの決勝は、東京五輪・パラリンピックに向けてのテスト大会として行われた。なのに仮設だらけ……では一体全体、何のためのシミュレーションなのか、理解に苦しむ。

 一般客の入場口も制限され、1層スタンドから2層、3層への導線も限られていた。まだまだ未完成なので使い勝手が悪い。未完成なので致し方なし、とはいえ、どうして「完成した」とアナウンスしたのか。いかがなものか? と思う。

 そして最悪だったことがある。今回は使用できなかった3層スタンドの記者席の位置である。

 埼玉スタジアムやカシマスタジアムを例に出すまでもなく、世界のスタジアムの記者席は、メインスタンドの中央部分に設置されているものである。ところが、新国立も旧国立と同じようにメインスタンドの右よりに作らていた。もっとも、旧国立に設置された右寄り記者席には理由がある。

 前回の東京五輪(1964年)当時、日本国内でサッカーはマイナー競技でしかなく、初めて五輪を開催するに当たって記者席の場所は、陸上競技の花形競技である100メートルのゴールラインの延長線上に作られた。

 時代を考えると仕方ないと思う。しかし、今夏の東京五輪の後、果たして新国立で世界的な陸上競技の大会が一体、何回開かれるのだろうか? たとえ開催されたとしても、キャパシティーに見合った観客を動員することは、おそらく世界陸上でも招致しない限りは難しいだろう。ちなみに世界陸上は2021年にアメリカで、2023年にはハンガリーで開催されることが決まっている(その後は未定)。

 返す返すも残念なことがある。それは芝生のピッチの周りに陸上のトラックが残ったことだ。

 今後の新国立では、11日に大学ラグビーの決勝戦が行われ、その後は5月に陸上のパラリンピック大会や東京五輪向けのテスト大会が予定に入っている。同月には嵐のコンサートも予定されているようだが、スタンドが満員になるのは、嵐のコンサートだけだろう。

 サッカーの日本代表やJリーグの試合会場として「新国立は使われるのですか?」と聞かれても「サッカーの専用競技場ではないので埼玉スタジアムの頻度が高いでしょう」と答えざるを得ない。

 交通の便は申し分がない。歴史的にも<サッカーの聖地>と言われ、非常に高いステイタスを誇っている。そんな国立競技場が、装いも新たになったというのにサッカー観戦という視点から見ても、あまりにも凡庸なスタジアムになり下がった。

 やはり今夏の東京五輪終了後、トラックを撤去して観客席を増設した方が、新国立を有効活用することができるはずだ。

 記者席の場所ひとつとっても、日本のスポーツ界は「陸上競技連盟がリードしている」ことが伝わってくる。新国立の公式戦のこけら落としとなった天皇杯サッカーを取材しながら、サッカー界の無力さを改めて感じた年始めでもあった。

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