著者のコラム一覧
岡邦行ルポライター

1949年、福島県南相馬市生まれ。ルポライター。第3回報知ドキュメント大賞受賞。著書に「伊勢湾台風―水害前線の村」など。3・11後は出身地・南相馬中心に原発禍の実態を取材し続けている。近著に「南相馬少年野球団」「大島鎌吉の東京オリンピック」

正社員になり昇進も 後進を育てる夢を叶えぬまま旅立った

公開日: 更新日:

1968年メキシコ五輪・男子体操代表 加藤武司さん(下)

 1972年のミュンヘンオリンピックを前に、28歳で潔く現役選手引退を発表。晴れてソニーの「嘱託社員」から「正社員」になった金メダリストの加藤武司――。

 ときは高度経済成長期。正社員の加藤は、連日のように夜遅くまで働いた。そのためだろうか。同僚の目は冷ややかだった。

「あいつ、残業代を稼ぐために会社に来ているんじゃないの。オリンピック野郎が……」

 口さがない者は彼をそんなふうに揶揄した。しかし、意に介さなかった。選手時代の遅れを取り戻すには、人一倍働かなくてはならなかったからだ。

「男なら出世しなければならない。出世したい。同僚に差をつけられてはダメだ。俺はオリンピックのせいで遅れている……」

 加藤は妻・宏子に、まるで呪文を唱えるように繰り返した。仕事で悩んでいるときは、酒を飲んでも寝つかれず、夜中に突然起きて、また飲んで寝る。すでに2人目の子どもができていたが、ほとんど顔を合わすこともなかった。自宅には寝に帰ってくるといったほうがよかった。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    世良公則氏やラサール石井氏らが“古希目前”で参院選出馬のナゼ…カネと名誉よりも大きな「ある理由」

  2. 2

    国分太一が社長「TOKIO-BA」に和牛巨額詐欺事件の跡地疑惑…東京ドーム2個分で廃墟化危機

  3. 3

    浜田省吾が吉田拓郎のバックバンド時代にやらかしたシンバル転倒事件

  4. 4

    “お荷物”佐々木朗希のマイナー落ちはド軍にとっても“好都合”の理由とは?

  5. 5

    「いま本当にすごい子役」2位 小林麻央×市川団十郎白猿の愛娘・堀越麗禾“本格女優”のポテンシャル

  1. 6

    幼稚舎ではなく中等部から慶応に入った芦田愛菜の賢すぎる選択…「マルモ」で多忙だった小学生時代

  2. 7

    「徹子の部屋」「オールナイトニッポン」に出演…三笠宮家の彬子女王が皇室史を変えたワケ

  3. 8

    TOKIO解散劇のウラでリーダー城島茂の「キナ臭い話」に再注目も真相は闇の中へ…

  4. 9

    新横綱・大の里の筆頭対抗馬は“あの力士”…過去戦績は6勝2敗、幕内の土俵で唯一勝ち越し

  5. 10

    フジテレビ系「不思議体験ファイル」で7月5日大災難説“あおり過ぎ”で視聴者から苦情殺到