桑田真澄の“光と影”…頼れるエースには数々の醜聞と汚名が

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 どんな人間にも光と影がある。しかし、巨人の投手チーフコーチ補佐に就任した桑田真澄(52)ほど両面がはっきり分かれる人物は珍しい。1985年のドラフト1位で巨人に入団すると、2年目に15勝を挙げるなど、6年連続で2ケタ勝利をマーク。「3本柱」として巨人を支えた押しも押されもせぬ元エースである。一方で、義兄の投資失敗でつくった借金の処理を親会社の読売新聞にしてもらったことで「投げる不動産屋」と揶揄されるなど、常にスキャンダルがついて回った。現役時代を知る関係者が語った。

 ◇  ◇  ◇

「頼りになる男であり、そういえば、お騒がせな時期もありましたね」

 こう言うのは、1989年に巨人の監督に就任した藤田元司氏に呼ばれる形で3度目の(一軍)投手コーチに復帰した巨人OBの中村稔氏である。

 高卒2年目だった87年に15勝6敗、防御率2.17で最優秀防御率のタイトルを獲得。沢村賞に選ばれた。89年は2年連続開幕投手で年間20完投。リーグ最多の249イニングとフル回転し、キャリアハイの17勝をマークした。斎藤、槙原と「3本柱」を形成。その中でも桑田は軸となり、日本一に貢献した。

■登板日漏洩疑惑で1カ月謹慎

 が、翌90年に事件が勃発する。「登板日漏洩疑惑」である(記事末のコラム参照)。巨人は3月、桑田に対し、登板禁止1年、罰金1000万円の処分を主張。ここで立ち上がったのが藤田監督だった。球団幹部に「謹慎1年なんて選手が死んでしまうような罰はダメ。もっと短くするべきだ。1カ月で十分反省できる」と掛け合い、謹慎期間は開幕から1カ月に短縮された。前出の中村氏がこう言う。

「日本中が大騒ぎでしたし、桑田はまだハタチそこそこ。普通なら潰れてしまいますよ。いろいろな報道もありましたし、藤田監督に『俺たちが防波堤になって守ってあげよう』と言われたのを覚えています。よく食事に連れていきましたが、『野球賭博はやっていません』と言うから『よし信じよう』と。球団に虚偽の報告をしたことは褒められたもんじゃないけど、1年の謹慎を藤田監督に1カ月にしてもらい、恩を返そうという執念のようなものを感じました。あんな喧噪の中でも動揺する様子もなく、開幕後の謹慎期間中もジャイアンツ球場に居残って『目にモノを見せてやりますよ』と言いながら、鬼気迫る様子で黙々と練習をこなしていました。肝っ玉が太いというか、斎藤、槙原と比べても精神力が強い。これこそが身長が小柄(174センチ)でも成功した理由だと思います」

 謹慎後は2試合連続完封でシーズン復帰。1カ月の遅れを取り戻すべく勝ちまくり、勝利数、防御率は同僚の斎藤に続くリーグ2位と活躍した。

 この年、巨人は2年連続20勝で最多勝と防御率の2冠となったエース斎藤を筆頭に、桑田、宮本が14勝、木田が12勝、香田が11勝と2ケタ勝利が5人。さらに槙原も9勝を挙げチームの88勝のうち、80勝はこの6投手で挙げるという驚異の先発陣でリーグを独走した。

「桑田は子供の頃から骨盤が開いているため、投げる際に上げる左足を右足の方向にぐっと入れられないんですね。それなのに、藤田監督は何度言っても『もっと入れろ。言うこと聞かねえと教えねえぞ』と怒るんです。桑田からすれば、どうしようもないこと。だから左足を入れなくてもいい投球フォームをとことん追求していました。研究熱心なのはあの頃からです」(中村氏)

「野球センスの塊のような男」

 94年から巨人の打撃コーチなどを歴任した内田順三氏がこう証言する。

「野球センスの塊のような男でしたね。投手だけど打撃も良かった。打席ではバットを一握り短く持って、ヘッドを速く回し、体から近い変化球に対応しようとする。『投手は打撃練習をしないけど、試合では打たないといけない。確率を上げるために短く持つのは当然です』って。そんな投手は桑田くらい。バントもうまかった。故障で二軍にいる時、遊撃のポジションでノックを受けているのを見ると、フットワークや肩の強さ、どれを取っても本職の若手を凌駕していた。野手でも成功していたと思います」

 エースとして不動の地位を築いていた10年目の95年にロッカールームや移動用バスを分煙化するよう、球団に直訴。長嶋監督も後押しした。内田氏が続ける。

「今でこそ禁煙、分煙は当たり前だけど、あの頃の球界関係者の多くは愛煙家で、私も1日3箱吸っていた時代。ロッカールームやバスの中が煙でモクモクなのは当たり前だと思っていました。『吸わない人にも害があるからバスは2台に分けましょう』という桑田の提案に、妙に感心したのを覚えています。昔からはっきりモノを言うタイプでした」

 52歳の新人コーチはどんな指導をするのか。キャンプインまで1週間だ。

 ◇  ◇  ◇

【1990年の登板日漏洩疑惑とは】

 桑田と専属契約を結んでいたスポーツ用具メーカーを解雇された人物が1990年、桑田が自らの登板日を知人に漏らしていたことを暴露本で明らかにした。

 この書籍の中で桑田が「前科がある人」に登板日を教えたらしい旨の記述があったため、桑田が野球賭博に関与しているのではないかとの臆測を招き、その件も週刊誌やスポーツ紙などで騒がれることになった。

 野球賭博に関与した事実はないことが裁判による和解で確認されている。当初、桑田は登板日漏洩の事実と金品の授受の事実をいずれも否定していた。

 しかし、その後にこの2点が虚偽であることが判明。巨人は3月30日、桑田に対し、金品の授受などが統一契約書に反するとし、シーズン開始後、登板禁止1カ月、罰金1000万円の処分を下した。この件は国会で取り上げられるほど社会問題化し、大騒ぎとなった。(一部敬称略)

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