春日良一
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春日良一五輪アナリスト

長野県出身。上智大学哲学科卒。1978年に日本体育協会に入る。89年に新生JOCに移り、IOC渉外担当に。90年長野五輪招致委員会に出向、招致活動に関わる。95年にJOCを退職。スポーツコンサルティング会社を設立し、代表に。

森喜朗組織委会長は辞任不可避 これだけの理由

公開日: 更新日:

 東京オリンピックは緊急事態を迎えた。森喜朗東京オリンピック組織委員会会長が女性蔑視発言をして問題となり、それを釈明し、謝罪する会見で逆にジェンダー問題を全く理解していないことを露呈してしまったからだ。

 そもそも今回の発言は、男女同数に役員数を近づけようと努力する日本オリンピック委員会(JOC)山下泰裕会長を労うつもりで語ったと思われるが、その前提がそもそも男社会に女性を入れると言う意識からの発言であるから、釈明の余地がない。

 深刻なのはこの事態を森氏自身が「謝れば済む」と思っていたことだ。会見で「辞任のつもりはない」として、皆が要らないと言うのなら粗大ゴミとして掃いて捨ててくれ! と言ったが、その裏には“自分はこれまで東京五輪に尽くしてきた、そして今も尽くそうとしている。その私に出て行け!と言える者があるのか?”という自信がある。

 しかし、森氏はオリンピック精神を理解してない。釈明は自己弁護に、謝罪は形式主義に終わった今回の会見でそれを露にした。

■IOCが「問題は終了」としても終わりではない

 IOCはスポーツの自律を重んじるため内政干渉はしない。組織委から問題認識と謝罪会見の報告があれば、それ以上は追求しない。組織委自身の自己浄化を求めていく。故にIOCが「問題は終了」とし、一旦収拾を図ったとしてもそれで終わりではない。ことはジェンダーの問題である。オリンピック改革綱領を提げて登場したバッハ現会長にとってみれば、その肝の一つである男女平等政策の精神に理解がない東京五輪のリーダーは爆弾を抱えたようなものだ。

 バッハ会長自らが率先して進めるアジェンダ2020(五輪改革綱領)には、「男女平等を推進する」と言う項目があり、「オリンピック競技大会への女性の参加率50%を実現し、オリンピック競技大会への参加機会を拡大することにより、スポーツへの女性の参加と関与を奨励する」と言う項目がある。東京五輪では48.8%の達成率となり、2024年のパリ五輪では50%を達成する。順風満帆に進んでいる改革のイメージが森氏の発言で傷を負う。

 世界の女性が黙っていない。スポーツに関わっている女性が黙っていない。各国の国内オリンピック委員会、各国際競技連盟が有するそれぞれの選手委員会の女子たちが黙っていない。そうなればIOCのアスリート委員会も動かざるを得ない。そういう状況になれば、問題が大きくならないうちにIOCは組織委の自浄を求めるだろう。

■よぎる竹田恒和氏のケース

 一昨年に無実を主張しながらJOC会長とIOC委員を去った竹田恒和氏のケースが想起される。ラミン・ディアク氏のスポーツ界における汚職調査の中で浮かび上がった東京五輪招致の収賄についてフランス当局からの調べが入った竹田氏を当初IOCは「推定無罪」で保護したが、ディアク氏の捜査が進むなかで竹田氏へのサポートを結果的に諦めた。

 森氏は同じ流れにならぬうちに潔く身を引き、新鮮で若きリーダーが登場しなければ、流れは変わらない。オリンピック精神を理解し、人々に五輪の意義を伝えられる人材に代わるべきだ。

 コロナ禍で離れ離れになっていく心を繋げるのは、この状況を共に乗り越えて人々の心をつなぐオリンピックを作っていきましょう!という謙虚な心だ。国民が、少なくとも都民が歓迎しない限りオリンピックは実現できない。コロナが問うてきたものは、そのことなのだ。

 森氏がこのまま居座ることをオリンピックが許すとは思えない。

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