元大関貴景勝・湊川親方〈1〉「現役時代は自分中心でも、今は逆。難しいし、悩む時もあります」
吉田 以前、師匠になる前は「指導というのは力士が一人一人違うから大変だと思います」と言っていたじゃないですか。実際どうですか?
湊川 そうですね。難しいし、悩む時もあります。それでも弟子が教えた通りにいい相撲で勝ったりすると、そういう悩みを全部吹き消してくれるというか……。自分が現役だった頃よりも、達成感が強いんですよ。現役時代は優勝しても、達成感というよりは安堵感の方が強かった。「やってきたことが結果に出てくれてよかった」と、そこで終わっていた。でも、弟子がいい相撲で勝つと、純粋にめちゃくちゃうれしい。これは逆もあるんです。現役時代は負けても「こういう理由で負けたから、次はこうしなきゃいけない」と、すぐに切り替えていた。今は弟子が変な相撲を取って負けたら、ものすごく腹が立つし、悔しいんですよ。
吉田 自分の指導がどこか違ってたのかな、みたいな?
湊川 それもあるし、「なんでここでやりきらなかったんだ」って本人に対して……。何ていうんですかね、「もっとやれるだろう!」という感情。現役の頃は喜怒哀楽を抑えて、(精神を)一定に保つことを考えていましたが、今は弟子が勝ったら本当にうれしい、負けたら悔しい。そんな日々を楽しませてもらっています。
吉田 それがさっきおっしゃっていた充実感?
湊川 そうですね。充実感がないと人生は楽しくないですから。弟子のおかげで充実させてもらっているので、本当にうれしいですね。
吉田 稽古を拝見していると、さっきおっしゃってた精神論と技術論をうまい具合にバランスを取りながらアドバイスされてますよね。
湊川 どちらも大事ですが、精神的に強くない子は精神的に強くさせる(アドバイスの)比率が強く、精神は強くても粗削りな子には技術指導に力を入れる。個人個人を見ながら教え方も変えています。
吉田 師匠になると稽古場だけでなく、生活全般も指導しなければいけない。部屋の経営を含めて、大変さはどうですか?
湊川 経営はいろいろありますが、やはり一番の仕事は力士を指導して強くすること。それをやれてるだけで、十分ありがたいのかなと思っています。
吉田 力士の育成には健康管理も必要ですが、その部分はどうですか?
湊川 やっぱり食事というのはすごいんです。ウチの部屋はそこを意識しています。たくさん食べるにしても、何を食べるのかも大事。そこは相撲の稽古以上に大事だと思っているんですよ。
=つづく
(構成=本紙編集部)
▽湊川貴信(みなとがわ・たかのぶ)本名は佐藤貴信。1996年、兵庫県芦屋市出身。2014年、貴乃花部屋に入門し、同年9月場所が初土俵。16年新十両、17年新入幕。18年11月場所で初優勝を果たし、19年に大関昇進。24年9月場所中に引退。現役通算60場所で441勝254敗116休。幕内最高優勝4回、三賞7回、金星3個。最高位は大関。



















