故郷・陸前高田の変わり果てた風景「未来をなぞる 写真家・畠山直哉」

公開日: 更新日:

 東日本大震災を記録したドキュメント類はたくさんあるが、震災経験が「美」とどう関わるのかを考えさせるものは多くない。その数少ない一例が、現在都内公開中の映画「未来をなぞる 写真家・畠山直哉」。

 現代の美術写真家の中でも特に思索的な作風で知られる写真家が、壊滅的な打撃で一変した故郷・陸前高田を幾度も訪ね、歩き、変わり果てた風景を撮る。

 その姿を追跡したドキュメンタリーだが、津波で母もろとも実家を失った写真家は、不機嫌と困惑の入り交じったような表情のまま。

 しかし、その姿を追うビデオカメラが実に素直に、被写体と適度な距離を保ちながら、50歳を過ぎて故郷を失った男のぶぜんたる姿をてらいなく捉えてみせる。

 聞けば監督は、大阪の写真学校で写真家と師弟関係にあった若手なのだそうで、道理で遠慮なく、しかし敬意を持って先生の背中を追いかけるような迫り方なのだなと合点がいった。

 かつて写真家は、渋谷の暗渠のじめじめと腐敗した闇の底を怜悧な美学で捉え、発破で吹き飛ばされる石灰鉱山などを被写体に選びながら、思い入れを極力排除した風景写真の思弁性を追究してきた。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    落合博満さんと初キャンプでまさかの相部屋、すこぶる憂鬱だった1カ月間の一部始終

  2. 2

    “芸能界のドン”逝去で変わりゆく業界勢力図…取り巻きや御用マスコミが消えた後に現れるモノ

  3. 3

    渡辺謙63歳で「ケイダッシュ」退社→独り立ちの背景と21歳年下女性との再々婚

  4. 4

    参政党は言行一致の政党だった!「多夫多妻」の提唱通り、党内は不倫やら略奪婚が花盛り

  5. 5

    悠仁さま「友人とガスト」でリア充の一方…警備の心配とお妃候補との出会いへのプレッシャー

  1. 6

    伊東市長「続投表明」で大炎上!そして学歴詐称疑惑は「カイロ大卒」の小池都知事にも“飛び火”

  2. 7

    大阪万博は鉄道もバスも激混みでウンザリ…会場の夢洲から安治川口駅まで、8キロを歩いてみた

  3. 8

    早場米シーズン到来、例年にない高値…では今年のコメ相場はどうなる?

  4. 9

    中島歩「あんぱん」の名演に視聴者涙…“棒読み俳優”のトラウマ克服、11年ぶり朝ドラで進化

  5. 10

    米価高騰「流通悪玉論」は真っ赤なウソだった! コメ不足を招いた農水省“見込み違い”の大罪