北アイルランドの首都で英軍兵士のサバイバル劇「ベルファスト71」

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 いまの若者たちにはキョトンとされるだろうが、かつて「テロリスト」という言葉にどこかロマンチックな響きのある時代があった。

 それが変化し始めたのが72年のミュンヘン五輪あたり。その後、一般市民を巻き込む爆弾テロが一般化するにつれ「テロリスト」はみるみる「粗暴な狂信者」じみたものへと急変し、9.11を経て現在に至るのだ。

 現在、都内公開中の「ベルファスト71」はこんな古い記憶を図らずも思い出させる興味深い快作。

 題名からわかるように舞台は1971年の北アイルランドの首都ベルファスト。爆弾テロで有名なIRAの本拠地に配属された若い英軍兵士が、地元住民との偶然の小ぜりあいでライフルを奪われ、仲間に置き去りにされたまま町中を逃げ回る羽目になる。れんが造りの狭苦しい路地を逃げ回る主人公の息苦しいサバイバル劇。それはベトナムのジャングルで恐怖にさいなまれた同時代の兵士の姿に通じる一方、テロが当たり前になってしまった現代に生きる人間たちの形容しがたい不安と恐怖の心情をも表しているかのようだ。

 その意味でこの映画は、町山智浩著「トラウマ映画館」(集英社 580円+税)が論じたような、トラウマと映画の不思議な関係を改めて想起させる一本でもあるだろう。

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