「虚人の星」島田雅彦著

公開日: 更新日:

 子どもの頃、父親に寿司屋に置き去りにされ、そのまま父親が失踪するというトラウマを持つ星新一。成長するにつれて本来の自分とは違う7つの別人格が次々と現れ、交代で意識を乗っ取られるようになる。父親の友人だった精神科医・宋猛の助言のもと、別人格をなんとか乗りこなし外務省の役人となったが、宋から思いがけない提案を受けた。

 一方、自由国民党の3代目世襲議員の松平定男は、北条総理の後ろ盾で44歳にして首相となる。当初、上杉官房長官のお膳立て通りに仕事をこなしていた松平だったが、米国大統領との非公式ディナーの折に内なる声に導かれて大演説を披露する。それはまるで、松平の意思とは別人の霊が天から舞い降りたかのようだった……。

 日本の命運を握る世襲総理とトラウマを背負った多重人格の男との数奇な交錯を描いた風刺たっぷりの野心作。国家の操縦桿を握る総理大臣の深層心理に踏み込んでいくスリリングな展開で一気に読ませる。(講談社 1600円+税)



最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    西武フロントの致命的欠陥…功労者の引き留めベタ、補強すら空振り連発の悲惨

    西武フロントの致命的欠陥…功労者の引き留めベタ、補強すら空振り連発の悲惨

  2. 2
    西武の単独最下位は誰のせい? 若手野手の惨状に「松井監督は二軍で誰を育てた?」の痛烈批判

    西武の単独最下位は誰のせい? 若手野手の惨状に「松井監督は二軍で誰を育てた?」の痛烈批判

  3. 3
    巨人・小林誠司の先制決勝適時打を生んだ「死に物狂い」なLINE自撮り動画

    巨人・小林誠司の先制決勝適時打を生んだ「死に物狂い」なLINE自撮り動画

  4. 4
    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

  5. 5
    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

  1. 6
    日本ハムは過去2年より期待できそう 新外国人レイエスが見せつけた恐るべきパワー

    日本ハムは過去2年より期待できそう 新外国人レイエスが見せつけた恐るべきパワー

  2. 7
    大谷はアスリートだった両親の元、「ずいぶんしっかりした顔つき」で産み落とされた

    大谷はアスリートだった両親の元、「ずいぶんしっかりした顔つき」で産み落とされた

  3. 8
    【中日編】立浪監督が「秘密兵器」に挙げた意外な名前

    【中日編】立浪監督が「秘密兵器」に挙げた意外な名前

  4. 9
    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

  5. 10
    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗