著者のコラム一覧
香山リカ精神科医・立教大学現代心理学部映像身体学科教授

1960年、北海道生まれ。東京医科大卒。NHKラジオ「香山リカのココロの美容液」パーソナリティー。著書に「執着 生きづらさの正体」ほか多数。

ギャップ萌えの自己演出に心が凍りついた

公開日: 更新日:

「ブラック・デモクラシー 民主主義の罠」藤井聡編、適菜収ほか著

 大阪ダブル選直前に出た本書を、「維新2勝」の結果を見届けてからおもむろに読み始める。

 維新の中心人物・橋下徹氏は、一見すると“デモクラシーの人”である。選挙で選ばれて府知事になり市長になり、さらに大阪都構想の住民投票で負けて政界引退する、と言った。そこが「潔い」と評価され、橋下氏の人気が再上昇したのも今回のダブル選勝利につながったのだろう。

 しかし、「デモクラシー=多数決」ならそれは“正しい決断”であり、そのもとで行われるのは“正しい政治”なのか。本書は実は「悪を生み出すデモクラシー」もあると主張し、橋下政治はまさに「ブラック・デモクラシー」なのだと仮定しながら5人の論者が多角的に論じた大胆な論集なのである。編者でもある藤井聡氏によると、“ブラック”の場合、徹底的な詭弁、言論封殺、プロパガンダで世論を誘導しておいて、その結果、選挙なり投票を行って、その結果を絶対視するという特徴がある。またそのプロセスで必要なのは、いささかもためらいがないというニヒリズムだという。

 私も橋下氏に「サイババ」と罵られ、テレビで討論したことがあるが、たとえば「○○の予算を知っているか」などと質問してきて大阪行政に明るくないこちらが言葉に詰まるとここぞとばかりに激しく攻撃し、司会者がたしなめると一転して少年のような無垢な笑顔を見せる。カメラの前での“ギャップ萌え”の自己演出に「この人の真意はどこにあるのだろう」と深い闇を覗いたようで心が凍りついたが、それがニヒリズムだと言われれば合点がいく。

 ほかの論稿も読みごたえのあるものばかりだが、残念なのは女性論者がいなかったこと。従軍慰安婦問題など橋下氏には女性蔑視の傾向があると思うのだが、その点についても切り込んでほしかったな。……え、あんたが書けばいい、って? では、そのうちにぜひ。

【連載】香山クリニックのしなやか本棚

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    中学受験で慶応普通部に進んだ石坂浩二も圧倒された「幼稚舎」組の生意気さ 大学時代に石井ふく子の目にとまる

  2. 2

    横浜とのFA交渉で引っ掛かった森祇晶監督の冷淡 落合博満さんは非通知着信で「探り」を入れてきた

  3. 3

    出家否定も 新木優子「幸福の科学」カミングアウトの波紋

  4. 4

    国宝級イケメンの松村北斗は転校した堀越高校から亜細亜大に進学 仕事と学業の両立をしっかり

  5. 5

    放送100年特集ドラマ「火星の女王」(NHK)はNetflixの向こうを貼るとんでもないSFドラマ

  1. 6

    日本人選手で初めてサングラスとリストバンドを着用した、陰のファッションリーダー

  2. 7

    【京都府立鴨沂高校】という沢田研二の出身校の歩き方

  3. 8

    「核兵器保有すべき」放言の高市首相側近は何者なのか? 官房長官は火消しに躍起も辞任は不可避

  4. 9

    複雑なコードとリズムを世に広めた編曲 松任谷正隆の偉業

  5. 10

    中日からFA宣言した交渉の一部始終 2001年オフは「残留」と「移籍」で揺れる毎日を過ごした