著者のコラム一覧
佐々涼子ノンフィクションライター

1968年生まれ。早稲田大学法学部卒業。2012年「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」で第10回集英社・開高健ノンフィクション賞を受賞。最新刊「紙つなげ!彼らが本の紙を造っている」でキノベス1位ほか8冠。

震災後の日本を旅して“魂の故郷”を探す女性の物語

公開日: 更新日:

「死者が立ち止まる場所 日本人の死生観」マリー・ムツキ・モケット著、高月園子訳

 欧米のホラー映画を見ていると興ざめすることがある。怪奇現象の正体が実は「悪魔」だったりすると、とたんにうそっぽくなって、「なんじゃそりゃ」という気分になるのだ。

 では「幽霊」はどうだろう。日本人の私には、正直言って遭遇しないでいる自信がない。日頃は、私だって幽霊なんていないと思っている。しかし、被災地で幽霊話を聞くと錯覚だとは言い切れない自分に気づくのだ。

「死者が立ち止まる場所」は、日本人の母とアメリカ人の父を持つアメリカ在住の著者が、父を亡くして、近代的なカウンセリングでは癒やせない喪失感を癒やすため、震災後の日本を旅する物語だ。彼女は、被災地での除霊や、宿坊体験、さらに恐山でいたこに父の霊を呼び出してもらう体験を通して、日本人の死生観について学んでいく。

 どうやら、我々は死者とともに生きているらしい。たとえば「オヒガン」。

「日本では遺族の悲しみは片道通行ではない。亡くなった者たちもまた、同じぐらい私たちを恋しがっているとされている。死者のほうは常に私たちを懐かしみ、私たちのもとに帰りたがっている」

 改めて説明されると、当たり前の行事が神秘的な色合いで立ち上がってきて、我々がいかに死者の魂を身近に感じているかがわかる。著者のフィルターを通して立ち上がってくる世界を見れば、震災前と変わらない世界に住む人、新しい時代へと歩む人、そして、死者の魂とともに中間領域にとどまる人、と同じ日本にいても、我々は違う階層で生きていることがわかるだろう。

 この巡礼の果てに著者に気づきが訪れる。

「私は自分自身の悲しみを、他のすべての人の悲しみという全体図の中に置いてみられるようになっていた。私の流した灯籠は他の無数の灯籠の一つでしかない」

 本書は彼女だけでなく、我々日本人にとっての悲しみの形を発見する書であり、魂の故郷を探す書でもある。(晶文社 2500円+税)


【連載】ドキドキノンフィクション 365日

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高市首相の大誤算!「私の悲願」と豪語の消費税減税に世論「反対」多数の謎解き

  2. 2

    「エプスタイン文書」名前記載日本人のジャニーズ“顧問歴”が波紋…ファンの擁護と芸能界に広がる影響

  3. 3

    国民民主の“お嬢さま候補”が運動員買収容疑で逮捕 自爆招いた強すぎる上昇志向と国政進出への執着心

  4. 4

    高市首相が国民を騙し討ち…選挙公約記載なし「定額働かせ放題」を施政方針演説に突如ねじ込み

  5. 5

    愛子さまの将来に影響を与える高市政権「皇室典範改正案」66歳の誕生日を迎えた天皇陛下は…

  1. 6

    国民が気付いた税収減の危うさ…衆院選“争点つぶし”の副産物「消費税減税反対24.9%」で最多

  2. 7

    大谷翔平のWBC“緊急登板”は本当にないのか?「(自分が投げると)絶対に言う」と栗山英樹前監督

  3. 8

    4月からフリー転身の岩田絵里奈アナに立ちはだかる 「日テレ出身」の不吉なジンクス

  4. 9

    高市首相「コラム全消し」炎上やまず…過去発言の“ほじくり合戦”まで勃発で完全裏目

  5. 10

    和久田麻由子vs岩田絵里奈 "女子アナサバイバル”の勝者はどちらに?