著者のコラム一覧
佐々涼子ノンフィクションライター

1968年生まれ。早稲田大学法学部卒業。2012年「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」で第10回集英社・開高健ノンフィクション賞を受賞。最新刊「紙つなげ!彼らが本の紙を造っている」でキノベス1位ほか8冠。

インドへ行ったら一度は「自分」探し?

公開日: 更新日:

「英国一家、インドで危機一髪」マイケル・ブース著 寺西のぶ子訳

「英国一家、日本を食べる」で話題になったマイケル・ブースの新刊である。今回は、中年の危機を迎えた著者が、妻と息子たちを連れてインドを旅する。

 野心とキャリアで自分の値打ちを測ってきた著者だが、そういうものがしぼんでしまったせいで自分を見失い、アルコール依存症気味であることを妻に心配されているアラフォーだ。前半こそ、お得意の食べ歩きの話が多いのだが、後半になると妻の策略で強制的に入れられたヨガ教室に話が移っていく。

 旅は、欧米セレブたちの間ではやっている精神世界での自分探しになだれ込んでいくわけだが、彼は、小さいころに触れたキリスト教に不信感を抱いて以来、その手のものにアレルギーを持っている。

 精神世界との距離を測りかねる中年男の姿が滑稽だ。何しろ、ほかのヨガの瞑想者が座禅を組んでいる姿を見ても、拒否反応が出てしまうのだ。

「『見て見て! 瞑想中だよ』とでも言いたげな姿勢だ。僕も同じようにやってみたが、自分自身を完全に裏切っている気がした」と、後ろ向きもいいところだ。うっかりヨガで前向きな気持ちが湧き出たと思ったら、次には意味不明な詠唱をさせられて、「自分はここで一体何をやっているんだ」と揺れまくる。

 日本の男なら、さしずめ、そば打ちとか、四国巡礼とか、滝行にでも走るのだろうが、英国人一家のお父さんは、本場インドで、デビッド・リンチやクリント・イーストウッドが習慣にしているという瞑想にはまる。

 こんな旅をするのも、生活が豊かになりすぎて、自分を探す暇があるからなのだろうと思っていたが、考えてみればインドなんて大昔から自分探しの本場だ。

 個人的には、無邪気に食い気に走っている著者のほうが好きだけど、インドに行ったら、やっぱり、一度は「自分」を探さねばならないのだろう。(KADOKAWA 1800円+税)





【連載】ドキドキノンフィクション 365日

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    佐々木朗希「スライダー頼み」に限界迫る…ドジャースが見込んだフォークと速球は使い物にならず

  2. 2

    永野芽郁「キャスター」視聴率2ケタ陥落危機、炎上はTBSへ飛び火…韓国人俳優も主演もとんだトバッチリ

  3. 3

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  4. 4

    風そよぐ三浦半島 海辺散歩で「釣る」「食べる」「買う」

  5. 5

    広島・大瀬良は仰天「教えていいって言ってない!」…巨人・戸郷との“球種交換”まさかの顛末

  1. 6

    広島新井監督を悩ます小園海斗のジレンマ…打撃がいいから外せない。でも守るところがない

  2. 7

    インドの高校生3人組が電気不要の冷蔵庫を発明! 世界的な環境賞受賞の快挙

  3. 8

    令和ロマンくるまは契約解除、ダウンタウンは配信開始…吉本興業の“二枚舌”に批判殺到

  4. 9

    “マジシャン”佐々木朗希がド軍ナインから見放される日…「自己チュー」再発には要注意

  5. 10

    永野芽郁「二股不倫」報道でも活動自粛&会見なし“強行突破”作戦の行方…カギを握るのは外資企業か