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本橋信宏
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本橋信宏

1956年、埼玉県生まれ。早大政経学部卒。ノンフィクション、エッセー、小説など幅広く執筆中。著書に「エロ本黄金時代」「東京最後の異界 鶯谷」ほか多数。

かっこよすぎるぞ、岡康道!

「夏の果て」岡康道著(小学館 710円+税)

 日々の暮らしに自信を失いかけたとき、他者が書いた私小説は格好の参考書になる。

 本書の著者、岡康道は私と同年生まれ、元電通マン、アメフトで鍛えあげた肉体、180センチを超す長身、広告業界初のクリエーティブエージェンシー「タグボート」代表、高級スーツを着こなし、風貌は映画俳優のよう。現在の日本でもっともモテ男の条件を兼ね備えた中年男性だろう。

 妻夫木聡、柳葉敏郎が出演するLOTO7。毎回奇妙な味わいの大和ハウス工業。彼が率いるタグボートのテレビCMは一癖も二癖もある。

 その岡康道による初の自伝的小説が文庫化された。

 冒頭から予想外の展開をみせる。亡き父の遺骨を納めようと佐賀県嬉野の寺を訪れるのだが住職から拒絶される。生前の実父はなにやら闇を抱えた人物だった。税理士を本業としながら実父は裏で何かビジネスをおこなっていた。消息不明になったかと思うとふらりと舞い戻り、都心に300坪もの広大な土地と家を手に入れる。

 著者19歳のとき、実父は5億円の負債を残したまま消息をたち、以後30年にわたって行方不明となる。大学生の著者のもとにも債権者がやってくる。社会人になって結婚した先にも突然、実父関連のことで刑事がやってくる。

 そもそも電通に入ったのも、カネに苦労した日々だったので、30歳のときにもっとも高額な企業を就職先に選んだ結果だった。

 花形企業に入社したものの、クライアントの前でネクタイだけ締めた全裸踊りの日々。全編を通じ著者に影のようにつきまとう居心地の悪さはいったい何だ?業界一のモテ男だと思われた人物にも凄絶な陰影があった。だが――著者は本書によって、モテ男最後の必須条件、“翳り”まで手に入れてしまったのだ。

 かっこよすぎるぞ、岡康道!

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