かっこよすぎるぞ、岡康道!

公開日: 更新日:

「夏の果て」岡康道著(小学館 710円+税)

 日々の暮らしに自信を失いかけたとき、他者が書いた私小説は格好の参考書になる。

 本書の著者、岡康道は私と同年生まれ、元電通マン、アメフトで鍛えあげた肉体、180センチを超す長身、広告業界初のクリエーティブエージェンシー「タグボート」代表、高級スーツを着こなし、風貌は映画俳優のよう。現在の日本でもっともモテ男の条件を兼ね備えた中年男性だろう。

 妻夫木聡柳葉敏郎が出演するLOTO7。毎回奇妙な味わいの大和ハウス工業。彼が率いるタグボートのテレビCMは一癖も二癖もある。

 その岡康道による初の自伝的小説が文庫化された。

 冒頭から予想外の展開をみせる。亡き父の遺骨を納めようと佐賀県嬉野の寺を訪れるのだが住職から拒絶される。生前の実父はなにやら闇を抱えた人物だった。税理士を本業としながら実父は裏で何かビジネスをおこなっていた。消息不明になったかと思うとふらりと舞い戻り、都心に300坪もの広大な土地と家を手に入れる。

 著者19歳のとき、実父は5億円の負債を残したまま消息をたち、以後30年にわたって行方不明となる。大学生の著者のもとにも債権者がやってくる。社会人になって結婚した先にも突然、実父関連のことで刑事がやってくる。

 そもそも電通に入ったのも、カネに苦労した日々だったので、30歳のときにもっとも高額な企業を就職先に選んだ結果だった。

 花形企業に入社したものの、クライアントの前でネクタイだけ締めた全裸踊りの日々。全編を通じ著者に影のようにつきまとう居心地の悪さはいったい何だ?業界一のモテ男だと思われた人物にも凄絶な陰影があった。だが――著者は本書によって、モテ男最後の必須条件、“翳り”まで手に入れてしまったのだ。

 かっこよすぎるぞ、岡康道!

【連載】裏街・色街「アウトロー読本」

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    農水省「おこめ券」説明会のトンデモ全容 所管外の問い合わせに官僚疲弊、鈴木農相は逃げの一手

  2. 2

    早瀬ノエルに鎮西寿々歌が相次ぎダウン…FRUITS ZIPPERも迎えてしまった超多忙アイドルの“通過儀礼”

  3. 3

    2025年ドラマベスト3 「人生の時間」の使い方を問いかけるこの3作

  4. 4

    武田鉄矢「水戸黄門」が7年ぶり2時間SPで復活! 一行が目指すは輪島・金沢

  5. 5

    松任谷由実が矢沢永吉に学んだ“桁違いの金持ち”哲学…「恋人がサンタクロース」発売前年の出来事

  1. 6

    大炎上中の維新「国保逃れ」を猪瀬直樹議員まさかの“絶賛” 政界関係者が激怒!

  2. 7

    池松壮亮&河合優実「業界一多忙カップル」ついにゴールインへ…交際発覚から2年半で“唯一の不安”も払拭か

  3. 8

    維新の「終わりの始まり」…自民批判できず党勢拡大も困難で薄れる存在意義 吉村&藤田の二頭政治いつまで?

  4. 9

    日本相撲協会・八角理事長に聞く 貴景勝はなぜ横綱になれない? 貴乃花の元弟子だから?

  5. 10

    SKY-HI「未成年アイドルを深夜に呼び出し」報道の波紋 “芸能界を健全に”の崇高理念が完全ブーメラン