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「ゾンビでわかる神経科学」ティモシー・ヴァースタイネン&ブラッドリー・ヴォイテック著、鬼澤忍訳

 毎日仕事に追われ、帰宅途中の居酒屋での一杯が何よりの楽しみという諸兄に、今回オススメしたいのがこの5冊だ。これからそろそろはやりだすインフルエンザがうつるのは、せいぜい患者の2メートル範囲内だとか、悪癖となかなか手が切れない科学的メカニズムなどなど、酒席で場を盛り上げられる面白科学ネタが満載だ。

 映画やドラマに登場するゾンビは、自分の意思がないように見えるのに、なぜか攻撃的な姿勢だけは一貫していて、集団で人間を襲う。しかし、攻撃しようとするわりには疲れたような表情で手足の動きは緩慢、歩き方も独特で足をひきずっているようにも見えるのはなぜか。そんなゾンビの謎を神経科学者が大真面目に解説したのがこの本。

 ゾンビに病名をつけるとしたら「意識欠陥活動低下障害」だという。睡眠と覚醒の境に永遠にとどまっており、そのため神経活動全般がスローダウン。

 ではゾンビの脳はどう診断できるか? 広い歩幅、のそのそした歩き方、そして止まることのない動作は小脳変性症のパターンを示している。つまりゾンビの運動症状は小脳機能障害のせいで生じているのだ。しかし、人間を見つけ進むことが可能なことから、大脳皮質運動野と大脳基底核の神経経路はあまり損なわれていない、と考察。テレビドラマなどに登場するゾンビを、専門用語も交えながら「診断」「分類」、そしてゾンビに出会ったときの対処法まで論じた面白ゾンビ解体書。

(太田出版 2000円+税)

「悪癖の科学」リチャード・スティーヴンズ著、藤井留美訳

 健康のためにあれをしろ、これをするなどの、世の中には清く正しく美しく生きるための情報があふれている。だが、わかっていてもやめられない。悪いこととは知りつつしてしまうのはなぜなのか。

 実は人間が生きていることを実感するのはリスクを選ぶときで、しかもそこには「利点」があるからだという。

 スピード狂の人は「刺激性欲求」が高くスリルを好む傾向があり、その裏返しで退屈な状態には耐えられない。スピード走行はスリルを楽しめると同時に退屈を克服する手段となるため、アクセルを踏まずにはいられないのだ。

 周囲を険悪な雰囲気にする「悪態」にも、隠れた利点がある。侮蔑的な言葉や卑猥な言葉を発すると体に「皮膚電気反応」が起こる。具体的にはアドレナリンが大量に分泌され、心拍数はアップするのだが、これは敵から攻撃されたとき素早く行動するための反応。悪態をつくことで、闘争・逃走のスイッチが入り、身を守ることにつながる。2010年に「悪態をつくことにより苦痛を緩和する」研究でイグ・ノーベル賞を受賞した著者が、悪癖のメカニズムをさまざまな実験から考察。

(紀伊國屋書店 1600円+税)

「真夜中に猫は科学する」薬袋摩耶著

 夜になると、どこからともなく猫が集まる「猫の集会」。ニャーニャー鳴き声をかわしつつ、時には威嚇しあい、時には互いの毛をつくろいつつ愛を交わすかもしれないその場は、まさに猫の社交場である。

 本書に登場する猫はある科学者に飼われていて、昼間はごろごろ寝てばかりのグルメ猫。しかし、どういうわけか、月・水・金の毎週3回、夕飯を食べ終わると猫の集会に出かけていく。実はそこで、飼い主から仕入れた科学ネタを猫たちに講義しているという設定だ。

 たとえば、そろそろはやりだすインフルエンザ。空気感染するイメージがあるが、正しくは飛沫感染で、せいぜい患者の2メートル範囲がレッドゾーンになる。インフルエンザウイルスの外側は脂質二重膜で覆われており、脂質はアルコールや石鹸で破壊できるため、しっかり手洗いをすれば予防になる。

 だが、ノロウイルスにはアルコールは効かない。乾燥しても感染力があり、絨毯などに吐いたら塩素系漂白剤で消毒するしかない。絨毯は猫たちの生活圏であるだけに「注意が必要」だ。

 他にも猫アレルギーの原因が猫の毛ではない話、DNAと遺伝子の違いなどなど、最近の話題から猫ネタまでと幅広く、軽妙な語り口ながら内容は専門的だ。

(亜紀書房 1700円+税)

「『偶然』と『運』の科学」マイケル・ブルックス編、水谷淳訳

 一見偶然に見える運だが、科学の力で呼び込むことができると説く本書。

 たとえば、結婚。結婚相手の決め時を知るには、「収穫逓減」という考え方を取り入れるとよい。100人の候補者と順に見合いをして、見合いのたびに結婚するか否か結論を下し、1人も選ばないまま100人目まで来たら100番目の人と結婚しなければならないとした場合、37人と見合いしてか、それまでの見合い相手の中で一番だと思った人で手を打つと最高の結婚相手と結婚できる確率が高いらしい。

 他にも、じゃんけんに勝つには最初にグーを出さない、1万人に1人の病気と診断されても希望が持てる基準比の考え方まで、ランダムな出来事を自分の得になるように使って運を高める方法を紹介する。

(SBクリエイティブ 1700円+税)

「『病は気から』を科学する」ジョー・マーチャント著、服部由美訳

 昔から「病は気から」と言われるが、それは本当なのか。最新医療における「心の役割」を科学の視点で探っていく。

 75歳のボニーは、足を滑らせ床で背中を打って以来、常に痛みに悩まされ、皿洗いのために立ち上がることもできなかった。数カ月後、椎体形成術と呼ばれる手術を受けたところ、痛みが消え10年経った今も元気に暮らしている。実はボニーが受けたのはニセ手術。効果の高い治療を受けたと信じることで症状を緩和させたのだ。このように「プラセボ効果」によって生理的機能の活性化、たとえ治療につながらなくても自覚症状が変わるのは、脳内でエンドルフィンと呼ばれる天然の鎮痛剤を産生するからだ。

 その他、疲労と脳の関係、社会的つながりが健康寿命のカギとなる理由など、心がどのような役割を果たしているかを解き明かす。

(講談社 3000円+税)

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