「最新基本地図2017」帝国書院編

公開日: 更新日:

 車にはナビが当たり前、スマホやPCでは地図どころか、見知らぬ町もモニター上で自由に散策できる時代に、新年を迎えるからと地図帳を買い替えたという人はおそらくいないだろう。しかし、かつては刻々と移り変わる世界情勢に合わせて、地図は買い替えるものだった。

 ということで、今年最初に紹介するのは「最新基本地図」なのだが、クリミア半島や泥沼のシリアが地図上で、どのように表記されているかを紹介するためではない。

 本書は、地図出版の老舗である版元の創立100周年を記念した特別版で、その100年の歴史を同社発行の地図で振り返る巻頭特集がおすすめなのだ。

 例えば、同社創立後に一般地図帳として最初に出版された「POCKET ATLAS OF JAPAN」(1929年刊)では、表見返しに関東地方の地形を表現した現在の3D映像さながらの「関東地方鳥瞰図」を配置。さらに京都市地図には、府内最大の面積を持つ淡水湖で、現在は干拓によって農地となってしまった巨椋池が記載されている。

 その4年後、1933(昭和8)年刊行の「新選詳圖 世界之部」に掲載されている世界現勢図では、第2次世界大戦前の日本が朝鮮半島や台湾などに領土を拡大している様子や、植民地主義によりアフリカやアジア諸国に独立国が少ないことがひと目でわかる。

 さらに1949(昭和24)年、戦後初の文部省検定済み中学校用地図帳として刊行された「The New SCHOOL ATLAS」には、GHQによる「NO OBJECTION(問題なし)」の検印とサインがあり、占領下の日本の現実を生々しく伝える。

 戦後しばらくは一般市場に地図は出回らず、1952(昭和27年)に一般書として発刊した「社会科 レリーフ地図」は国内の書店で人気を博したそうだ。

 その他、1975(昭和50)年の昭和天皇訪米の折に機内で旅程をご覧になれるように特別に製作された「航空路御案内」などの珍しい地図から、近年の「旅に出たくなる地図シリーズ」の一冊で東京の桜の名所などが書き込まれた「花の旅へさそう地図」(2015年刊)などの企画地図帳まで。歴史の移り変わりや地図表現の変化が一望できるさまざまな地図を紹介する。

 付録として昭和30年代の都電地図も添付。もちろん最新の地図情報も完璧で、久しぶりに地図帳を手にしてみれば、デジタルでは味わえない楽しさがあることに気づくことだろう。(帝国書院 2500円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平は米国人から嫌われている?メディアに続き選手間投票でもMVP落選の謎解き

  2. 2

    35年前の大阪花博の巨大な塔&中国庭園は廃墟同然…「鶴見緑地」を歩いて考えたレガシーのあり方

  3. 3

    高市内閣の閣僚にスキャンダル連鎖の予兆…支持率絶好調ロケットスタートも不穏な空気

  4. 4

    葵わかなが卒業した日本女子体育大付属二階堂高校の凄さ 3人も“朝ドラヒロイン”を輩出

  5. 5

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  1. 6

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  2. 7

    隠し子の養育費をケチって訴えられたドミニカ産の大物種馬

  3. 8

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  4. 9

    高市早苗「飲みィのやりィのやりまくり…」 自伝でブチまけていた“肉食”の衝撃!

  5. 10

    維新・藤田共同代表にも「政治とカネ」問題が直撃! 公設秘書への公金2000万円還流疑惑