「学生を戦地へ送るには」佐藤優著

公開日: 更新日:

 日米開戦前夜、京都学派の論客・田辺元は京都帝国大学で学生に向けて6回の講義を行った。そのときの講義集「歴史的現実」は、学徒動員された学生のバイブルとなり、感化された学生は講義集を胸に特攻機に乗った。「国のために命を捨てよ」という思想はどのように生まれ、どのように説かれたのか。今後同じ道を歩まないためにと、著者はこの講義集を読み直す合宿講座を開いた。本書は、そのときの合宿講座をまとめたものだ。

 当時、ソクラテスやハイデッガーらの論理を織り交ぜた田辺の講義は若き学生を魅了した。話の大半は学術的理論を踏まえたものだったが、自身の逃げ道も用意した上で最後に説かれたのは、ナチスの論理も巧妙に組み入れた大義を掲げて自ら死ぬという死の思想だった。国家にだまされないためにも、予防接種としてこの巧妙なロジックを知っておくべきだと著者は言う。

 田辺の思想を扱う必要があるほど今は危険な時代だという指摘に背筋が凍る。

 (新潮社 1600円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  2. 2

    高市政権の物価高対策はもう“手遅れ”…日銀「12月利上げ」でも円安・インフレ抑制は望み薄

  3. 3

    元日本代表主将DF吉田麻也に来季J1復帰の長崎移籍説!出場機会確保で2026年W杯参戦の青写真

  4. 4

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  5. 5

    京浜急行電鉄×京成電鉄 空港と都心を結ぶ鉄道会社を比較

  1. 6

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  2. 7

    【時の過ぎゆくままに】がレコ大歌唱賞に選ばれなかった沢田研二の心境

  3. 8

    「おまえもついて来い」星野監督は左手首骨折の俺を日本シリーズに同行させてくれた

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾