青春の蹉跌を描く900ページの長編

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「船に乗れ!(全3巻)」 藤谷治著/小学館文庫 1巻630円+税 2巻650円+税 3巻600円+税

 全3巻それぞれに副題が付いている。1から順に、「合奏と協奏」「独奏」「合奏協奏曲」。語り手の説明によれば、合奏とは、自分が全体の部分であることをわきまえて、ひとりではできない音楽を全員でめざすこと。協奏とは、一人一人が競り合って隙あらば自分が前に出ようとする、ときには共演者の音を食っていこうとすること。これに独奏を加えれば、なんとも意味深いタイトルだ。

【あらすじ】語り手は、若きチェリスト、津島サトル。母方は音楽一家で、幼い頃からピアノを習い、中学へ入ってからチェロを始め、芸大の付属高校を受験。ところが予想に反して不合格。仕方なく“おじいさま”が理事を務める新生学園の音楽科に進む。こんな二流の学校なんかどうせ大したことないだろうと高をくくっていたサトルだが、天才的なフルート奏者の伊藤慧や美人で野心的なバイオリン専攻の南枝里子らと出会うことで、これまで味わうことのなかった音楽の楽しさに接し、音楽浸りの毎日を送っていく。

 ところが2年生の夏、ドイツの短期留学から戻ってくると、思いがけない出来事がサトルを待ち受けていた。混乱したサトルは取り返しのつかない過ちを犯してしまう。そして3年生になった彼は、大きな決断を下す。

【読みどころ】クラシック音楽奏者という特異な青春を送るサトルの高校3年間が克明に描かれていくのだが、それは30年後のサトルが回想する形になっている。そのため、青春特有の蹉跌とそれに対する悔恨が深く刻まれており、その時代を過ごした者なら男女を問わず何とも言えぬ苦さを噛みしめることだろう。3巻合わせて900ページを超える長編だが、切なくも心揺さぶられる物語に思わず引き込まれてしまう。

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