「移植医たち」谷村志穂著
1984年秋、臓器移植の最先端を担うドクター・セイゲルが来日し、講演を行った。聴講者の中に3人の医師がいた。
久南大の佐竹山行蔵は肝臓がん患者を前になす術もない己の無力さを痛感し、移植医療に希望を見いだそうとしていた。
仙台の個人病院の小児科医・加藤凌子は、16年前、日本で初めて心臓移植を行った医師の娘で、マスコミの攻勢にさらされた父の行った医療が果たして正当だったのか、それを確かめたいと思っていた。
京都慶明大の研修医・古賀淳一は、これといった大義はなく、ただ移植医療の可能性に好奇心を刺激されていた。
3人は共に米ピッツバーグ大学のセイゲルのもとで移植医療を学んだ後、日本初の移植専門外科を立ち上げるのだが、そこに旧態依然たる日本の医療界が大きく立ちはだかる。
先日亡くなった“移植医療の父”トーマス・スターツルのもとで学んだ実在の日本人医師たちをモデルに、知られざる先端医療の現場と移植医たちの苦悩や葛藤をリアルに描いた、傑作長編。
(新潮社 1900円+税)