「木島日記 もどき開口」大塚英志著
奇怪な仮面をかぶり、古書店「八坂堂」の店主にして、「この世にあってはならぬもの」を仕分けする木島平八郎。女嫌いの民俗学者、折口信夫。そして霊的能力をもつ少女・美蘭(メイファン)。この奇妙な3人が活躍する〈木島日記〉シリーズの16年ぶりの最新作。
発端は、八坂堂に持ち込まれた一冊の本。太平洋の底に沈んだ「ミュー大陸」について書かれたもので、この翻訳を折口が手がけることになる。そして……と筋書きを続けたいが、ここから物語は夢と迷宮の世界に入り込んでいく。まず語り手が次々と代わっていき、登場するキャラクターの属性もくるくると変転していく。さらには、関東大震災で虐殺されたはずの大杉栄が過去から召喚されたり、時間と空間が歪められていく。そして、折口の師である日本民俗学の創始者、柳田国男がラスボスのごとく登場してきて、物語は混沌の度合いを深めていく。筋を追うのではなく、この虚実入り乱れためくるめく世界にひたすら浸ることになる。まさに読書の快楽を供する一書。
(KADOKAWA 2200円+税)