ビアライゼ'98(東京・新橋)「ビールメーカーが生みの親なら、注ぎ手は育ての親。最後に一杯を完成させるんです」
ビアライゼ'98 (東京・新橋)
うまいビールをじっくり味わうなら、パブやビアバーなどのビール専門店が一番だ。とことん吟味して仕入れた銘柄を楽しむもよし、注ぎ手の技術を楽しむもよし。珠玉の一杯を提供する東西4軒を取材した。(2回/全4回)
「松尾注ぎは二度注ぎですが、単純に2回に分ければいいわけじゃない」
東京・新橋にビール好きが吸い込まれる店がある。松尾光平さん(61)が営むこの店だ。高校1年から約45年、磨き上げた技は「松尾注ぎ」と称される。そうやって注がれたビールは、同じ銘柄をほかの人が注いだものとは別物で、1998年に自身の店をオープンすると、評判が評判を呼び、今では海外からも客が訪れる。松尾さんが言う。
「ビールは、サーバーのレバーを引いてグラスに入れて完成、ではありません。メーカーが生みの親なら、注ぎ手は育ての親。樽の状態を見て、機材を整え、銘柄の長所を引き出して、最後に一杯を完成させるんです。ビールはワインやウイスキーのように『ウチのはうまいから一杯2000円』とはできず、相場が大体決まっているでしょう。同じ値段なら、少しでもおいしい状態で出したい。注ぎ手は、そのビールの最高の状態を知らなきゃいけません」
そこでアサヒ「マルエフ」(435ミリリットル770円)を頼むと、円筒形サーバーの前へ。真鍮製のカランを操り、勢いよく注ぐと粗い泡が盛り上がった。
「松尾注ぎは二度注ぎですが、単純に2回に分ければいいわけじゃない。1回目は液体と泡をつくり、粗い泡を切ってクリーム状に整えます。待ち過ぎれば炭酸が抜けるので、樽の状態や泡のはじけ方を見極めます。2回目は炭酸を含んだビールを泡の下へ滑り込ませ、液体をかき回さず、泡だけを持ち上げるイメージ。炭酸を抜くのではなく、多過ぎる分を調整するのです。飲んでみると、最初に麦の味がきて、のどが開いたまますっと消える。マルエフの『コク』を際立たせるんです」
泡はこんもりとグラスの縁を越えるが崩れない。マッチ棒を刺すと直立した! 口に含むと苦みが舌に残らず、泡と液体がのどを滑り、胃の中へすうっと落ちた。
次に、同じ樽でわざと失敗した一杯を飲ませてもらうと、仰天。苦みを真っ先に感じ、炭酸も強く、ずしりと重い。片や優雅なクラシック、片や荒々しいガレージロック。まさに別物だ。
「ビールはすごくデリケートです。運ばれてきた樽は振動を受けているので、冷蔵庫で最低1日は寝かせ、十分に冷えたものをサーバーにつなぎます。そうすれば、ビールがノンストレスで『笑顔で出てくる』。管の洗浄も毎日自分でやります。注ぎ方と設備は、どちらが欠けてもダメです」
サーバーは、師匠・新井徳司さんが営んだ名店「灘コロンビア」から受け継いだ、70年以上前の特注品。内部を巡る約12メートルのらせん管を氷水で冷やす。現存する氷冷式では最古の一台だ。新井さんはドイツ文学者の助言をもとに、三度注ぎを日本のビールに合う二度注ぎへ改良。松尾さんはその技と道具を継ぎ、98年に店を開いた。師弟2代の試行錯誤が、ここでしか飲めない一杯を生む。
■関連記事
-
日本の皇族存続への危機と「愛子天皇待望論」 皇室典範改正で旧宮家の男性が「養子」に…受け入れ可能な4宮家が抱える難題とは
-
クラフトウイスキーを飲む旅に出る 【富山・三郎丸蒸留所】ウイスキー造りを五感で体験 樽工房を一般に公開している希少な蒸留所
-
パブ&ビアバー 珠玉の一杯をじっくり味わう ビアライゼ'98(東京・新橋)「ビールメーカーが生みの親なら、注ぎ手は育ての親。最後に一杯を完成させるんです」
-
風を感じてビールをグビッ! 最高にうまい外飲みが楽しめる3軒 サカナヤマルカマ(神奈川・鎌倉)刺身と総菜で一杯…魚屋の角打ちはもはや料理屋レベル
-
注目の人 直撃インタビュー 相次ぐ情報漏洩…サイバー攻撃は誰が何の目的でやっているのか? セキュリティーの専門家に聞いた
-
ウイスキー初心者へ おいしい一杯に出合う方法教えます「Bar Tenderly」の宮崎オーナー「最初から氷と合わせるともったいない」
-
世界一の店も取材 ブルワリーで飲んで食べる東西4軒 「MacKenDy」(神奈川・辻堂)年間王者は200リットル級 飲んべえが集うブルーパブ


















