1650万円を求めて賠償額はわずか149万円…「金額より相手を特定すること」 誹謗中傷裁判の当事者が語る勝訴の意味
SNS上の誹謗中傷に対する損害賠償額引き上げに向け、政府が動きを見せ始めた。山下貴司法相は9月29日、民法改正の研究会を設置すると発表。背景には、被害者が勝訴しても慰謝料が少なすぎるとの指摘が出ていたことにある。悪質性も慰謝料額決定に考慮すべきではという声もあったため、政府としても看過できなくなったのだろう。ONEフライ級キックボクシング暫定世界王座を獲得して引退した武尊氏(35)も10月19日までにSNSで誹謗中傷の法整備について前向きな発言を投稿している。
現在の裁判では慰謝料については明確な基準がなく、判例に基づいて決定している。法務省が調べた118件のうち、誹謗中傷を扱った裁判の損害賠償額の最高額は349万円で、中央値は30万円だったという。そんな中、『誹謗中傷を金にしたnetgeekとの闘い1800日』(村山惠二/プチ・リトル)という書籍には、誹謗中傷裁判の実例が詳しく描かれている。本書の内容と、当事者へのインタビューから、誹謗中傷裁判に至るまでの経緯と、その金額に対する各人の思いを紐解いてみよう。
■担当弁護士は「承知の上。気心が知れた関係でないと引き受けにくい」
netgeekとは、2013年に開設された「日本初のバイラルメディア」を謳ったサイトで、このサイトの運営会社に対する名誉毀損による損害賠償を求める集団訴訟が、2019年4月8日に提起された。裁判費用はクラウドファンディングで約330万円を集めた。同書によると原告は5人で1人あたり330万円、総額1650万円を求めたが、高裁での判決結果は以下の通り。()内は、netgeekに名誉棄損をされたと主張したものの一部。
①コンサルタントの永江一石氏:33万円+年5%の利息(「あたまがおかしい」、「奇行」「インチキコンサルタント」などと評された)
②社会学者の千田由紀氏:38.5万円+年5%の利息(モンスタークレーマー扱いされた)
③人事コンサルタントの新田龍氏:22万円+年5%の利息(いい加減な取材をしているように扱われた)
④会社員男性:55万円+年5%の利息(非正規雇用を取り上げるNHK番組に登場し、「偏屈な人格と社会活動に原因があるのではないか」と評され、「安部憎しの左翼活動家」扱いされた)
⑤会社員女性:棄却(TDLでの結婚式をめぐり「自己顕示欲が強すぎる」と評された)
合計149万円となったが、これは求めた額のわずか9%。こうしたことがあるからこそ民法改正の議論が沸き起こっているのだ。被害者が考える賠償金よりも随分少ない上、弁護費用もかかる。一方、弁護士にしても、成功報酬額が少ない割に、判決が出るまでには長い時間がかかり、儲かるものではない。2019年4月8日に開始した裁判が結審したのは4年後の2023年8月24日だった。永江氏と千田氏を担当した野間啓弁護士は、本書のインタビューでこう答えている。
〈最初から承知の上でやっていたので、大きな問題にはなりませんでした。ただ、こうした案件は気心が知れた弁護士(※注:野間氏と千田氏は高校の同級生)でなければ引き受けづらいですね。原告5人でクラウドファンディングも活用したので、手弁当というわけではありませんでしたが、金額面で割に合う案件ではなかったと思います〉
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